73歳のギタリスト・高中正義が世界の若者を熱狂させた理由──ストリーミングが起こした世界的ブレイク(元教授、定年退職811日目)
海外の 20〜30 代が熱狂した高中正義のギターサウンド
私たちの世代にとって、日本を代表するロック・フュージョン界のギタリストといえば、Char さんや高中正義さんの名前が思い浮かびます。少し偏りがあるかもしれませんが、1970〜80 年代で私がすぐに思い出すのは、現在70歳を超えているこのお二人です(もう少し後の世代になると、布袋寅泰さんや鮎川誠さんでしょうか)。そんな高中さんが、今年ワールドツアーを開催しているというニュースを耳にしました。しかも驚いたことに、この話題が NHK『クローズアップ現代』で取り上げられていたのです。ロンドンやニューヨークなどの主要都市ではチケットが即日完売し、合計約 4万5000人 を動員したそうです(公演地は、そのほか、シカゴ、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シドニー、メルボルン、オークランドでした)。さらに驚いたのは、観客層です。日本の 50〜60 代の「サディスティック・ミカ・バンド」時代からのファンではなく、海外の 20〜30 代の若者たちが会場を埋め尽くしていました。高中さんの卓越したギターテクニックと、歌うような旋律が、現地の若者たちを強く魅了したのです。インストゥルメンタルの楽曲であるにもかかわらず、彼らは大声でメロディを歌い、体をぶつけ合ったり押し合ったりしながらリズムに乗る「モッシュ」まで繰り返していたそうです。映像で見ると、まるでパンクロックのライブさながらの熱狂ぶりでした。この現象は、過去の日本の音楽が国境や世代を超えて再評価される、新たな潮流を示しているのかもしれません。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)


『クローズアップ現代』が追った世界的ヒット
『クローズアップ現代』で MC の桑子真帆さんが語っていたのは、欧米の若者たちが高中さんの曲に夢中になったきっかけが、ストリーミングサービスだったという点です。今や世界の音楽売上の約7割を占めるストリーミングは、ネット上で音楽を手軽に楽しめるサービスであり、日本の音楽も世界中で聴かれるようになっています。変化の兆しが見え始めたのは、およそ6年前でした。1970 年代に日本で流行した、都会的で洗練された「シティポップ」サウンドが世界の音楽ファンの目に留まり、再生回数が急増したのです。さらに Spotify などのストリーミングサービスでは、リスナーの好みに合いそうな別の曲が自動的におすすめされます。その流れの中で、欧米のファンに高中さんの曲が届いたそうです。加えて、大きな役割を果たしたのが、ファンによる SNS や動画での発信でした。誰かが見つけた日本の古い楽曲が、動画や投稿を通じて広がり、さらに別の誰かの耳に届いていく。そうした連鎖が、思わぬ形で世界的なブレイクにつながったようです。(下写真もどうぞ)

“静かにフェードアウト” のはずが伝説再燃
そして今年、高中さんは初のワールドツアーを決意しました。その背景には、データに基づく戦略があったそうです。ツアーを仕掛けたプロモーターは、高中さんの楽曲が世界のどの都市で多く再生されているのかを分析しました。そのうえで、再生数が多かった世界8都市を狙ってツアーを開催することにしたのです。その狙いは見事に当たりました。チケットは即日完売し、ライブの成功によってストリーミングの再生数はさらに上昇しました。ツアー中には、過去最高となる1日 120 万回の再生を記録したそうです。ちなみに、このツアーの大成功には、高中さん自身も「世界規模のドッキリカメラではないか」と疑うほど驚いたそうです。さらにカメラの前で「すごかった。楽しかった。めっちゃ面白かった。静かにフェードアウトの人生だと思ってたんですけど、最高。いや、気持ちいいです」と語っていました。その表情からは、新しい時代に再び迎え入れられた喜びが伝わってきました。
ストリーミング時代における国境なき音楽革命
番組にゲストとして出演した音楽評論家の柴那典さんは、現代のヒット創出の仕組みが根本的に変化したと指摘していました。かつてヒットの中心にあったのは CD の売上でした。そして、それを広めるためにはテレビや口コミが重要な役割を果たしていました。しかし現在は、ストリーミングの再生回数が主要な指標となっています。つまり、「売れた枚数」から「聴かれた回数」へと、音楽の価値を測る物差しが変わったのです。そして SNS が、その拡散を強力に後押ししています。この新しい力学の最大の特徴は、テレビや口コミといった従来のメディアが越えにくかった「国境」を、SNS とストリーミングが容易に越えてしまう点です。さらに今回は、データ分析とライブの連携が、このグローバルな好循環を加速させました。各都市の再生回数データから、その都市にどれくらいのリスナーがいるかを予測し、動員数を見込んだうえでライブを開催する。すると、会場に来たファンだけでなく、彼らの SNS 投稿などをきっかけに、さらにリスナーが広がります。その結果、ストリーミング再生が増え、また次の広がりを生む。ライブと SNS とストリーミングが連動する、新しいヒットのモデルが生まれているのです。(下写真もどうぞ)

ストリーミングが日本の音楽を変える?
一方で、日本の音楽業界はこの世界的潮流からやや遅れを取っているそうです。世界の音楽売上ではストリーミングが約7割を占めるまでに成長しているのに対し、日本市場ではその比率がまだ低いと紹介されていました。番組で示された下図では、音楽コンテンツの売上内訳を世界と日本で比較していました。世界では 2010 年代以降、青色で示されたストリーミングの割合がぐっと伸びています。一方、日本ではその青い部分の伸びがあまり大きくありません。この遅れが、日本市場の停滞や、世界市場での存在感の薄さにつながっているのではないかと警鐘を鳴らしていました。(下写真もどうぞ)

さらに SNS 時代において、音楽はただ聴くだけのものではなくなっています。ファンが「踊ってみた」動画を投稿したり、BGM として楽曲を利用したりすることで、「参加して楽しむ」ものへと変化しているようです。ユーザーが作るコンテンツ、いわゆる UGC は、今やヒットを生み出す重要な起爆剤になっています。時代は着実に変わっているようです。私もその波に少し乗って、懐メロだけでなく、たまには新しい音楽にも触れてみようと思いました。それでは、また。(上写真もどうぞ)
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注1:NHK『クローズアップ現代』の特集「70 年代曲から令和アイドルまで J-POP 新潮流」より
