最も明るく見える色、黄色が担う驚きのサイエンス──メカノクロミズム、有機鉱物とは? @サイエンスZERO(元教授、定年退職 745日目)
なぜイエローカードは一番目立つのか?
以前からNHK『サイエンスZERO』の「色シリーズ」を時々取り上げてきました。これまで緑、白、黒、赤など、それぞれの色の特徴がとても興味深く、「しばらく間が空いたな」と思っていたところで、今回は黄色がテーマでした。確かに、これまで扱われてきた色に比べると、身の回りで黄色そのものを強く意識する機会はそれほど多くないかもしれません。しかし、注意表示や立入禁止の標識などには欠かせない色であり、いざという時に人の目を引く重要な役割を担っています。現代社会では、その高い視認性がコミュニケーションの道具としても活用されています。たとえばサッカーの「イエローカード」は、言葉の壁を越えて警告を伝える視覚言語として世界中に定着しました(私は公式のイエローカードを購入し、冗談半分で、授業中にうるさい学生や居眠りしている学生に使っていました(笑))。また、IKEA のロゴやフェラーリのエンブレムなども、色彩心理や文化的アイデンティティを巧みに生かしたブランディングの成功例だと感じます。個人的には、現役時代にパワーポイントで資料を作る際、特に目立たせたい箇所の背景色として黄色をよく使っていました。黄色は、赤い文字でも黒い文字でも非常によく映えるのです。もちろん多用はせず、講演中の特に重要な数か所だけに絞って入れていました。(下写真もどうぞ)

<追記> 黄色は、可視光スペクトルのほぼ中央、波長 565〜590nm 付近に位置します。人間の網膜にある光受容体のうち、長波長を感じるL錐体(赤)と中波長を感じるM錐体(緑)の両方を同時に強く刺激するため、人にとって非常に明るく感じられ、周辺視野でも素早く検知される高い視認性を持ちます。つまり黄色は、複数の錐体を同時に刺激することで、「最も明るく目立つ色」の一つになっているのです。
誘惑か警告か? 自然界が使い分ける “黄色” の二面性。そして、赤+緑=黄の不思議
番組ではまず、色シリーズの “主人” としておなじみの千葉大学・堀内先生が、黄色は「二面性」の色だと語っていました。まず自然界における「誘惑」と「警告」です。植物の黄色い花は、ハチなどの送粉者を引き寄せる「誘惑」の色として機能します。その一方で、スズメバチや毒蛇などは黄色を警告色として使い、「近寄るな」という生存戦略上のシグナルを発しています。番組では面白い実験も紹介されました。赤色光と緑色光のペンライトを重ねて照らすと、その重なった部分が見事に黄色に見えるのです。光の三原色の実験として似たものは見たことがありましたが、この二色だけで黄色が現れる様子を見たのは初めてで、その鮮やかさに驚きました。ただ、理屈をきちんと考えると、「黄色の単色波長」が含まれていない赤と緑の光を混ぜるだけで、なぜ黄色として知覚されるのかは、なかなか不思議です。これは「加法混色」と呼ばれる現象だそうですが、単一波長としての黄色と、赤と緑の組み合わせによって知覚される黄色という、二つの黄色が存在するわけです。この点もまた、黄色の「二面性」を示していて実に興味深いと感じました。(下写真もどうぞ)

押すと青緑に変わる、魔法のような黄色い粉
番組では、名古屋大学・松尾豊先生らが開発した、圧力などの機械的刺激によって色が変わる「メカノクロミズム」を示す素材も紹介されていました。黄色の粉末、あるいは紙片状の材料をガラス棒で押すと、青緑色へと変色し、文字を書くことでその現象を可視化できるのです。興味深いのは、この化合物が偶然に見つかったという点です。もともとは太陽電池材料の合成過程で、意図せず黄色の物質として得られたものでした。本来期待していたのは濃い緑色の化合物だったそうですが、合成物は黄色でした。ところが、その物質を乳鉢の中で棒で押す(すり潰す)と濃緑色に変化することがわかり、そこから研究が進んだのです。この化合物は FA 化合物(フルオレンとアクリダンが結合した化合物)と呼ばれていました。
「折れ曲がり」と「ねじれ」の立体異性が、未来のフィルム技術を生み出す
さらに興味深いのは、そのメカノクロミズムの原因です。X 線構造解析によって、この化合物には、折れ曲がり型(非平面構造) と、ねじれ型(平面性を持ちながらねじれた構造) という二つの立体構造が存在することがわかりました。折れ曲がり型は青色光を吸収し、赤と緑を反射するため黄色に見えます。一方、ねじれ型は赤色光を吸収し、青と緑を反射するため青緑色に見えます。つまりこれは、立体異性の制御によって色が変わる現象だったのです。さらに面白いことに、外力を加えることでこれら二つの構造の比率が変化し、その結果として連続的な色変化が生じることもわかりました。つまり、加えた力の大きさと色変化の割合との相関を定量的に扱うことができるのです。たとえば下図で、色変化が 20% であれば圧力は 200MPa 程度と推定できるそうで、圧力測定フィルムとしての応用も期待されています。しかもこの材料は、アルコールをかけると元の黄色に戻るという可逆性も持っています。従来、歯科医院などで使われてきたマイクロカプセル型の圧力測定フィルムは不可逆的でしたので、より高度で柔軟な用途への展開も可能になりそうです。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)


紫外線で鮮やかに光る崖! 新種の有機鉱物「ホッカイドウアイト」
黄色のもう一つの特異な機能として、番組では「蛍光」も紹介されていました。近年、北海道の、かつて温泉がありオパールの形成で知られる「光る崖」で、紫外線照射によって多彩な蛍光岩石が観察されたそうです。その中に、黄色く強く発光する小結晶が見つかりました。この結晶は、紫外線を吸収したときにのみ発光する性質を持っていました。X 線分析の結果、有機物を主体とする「有機鉱物」であることが判明しました。登録鉱物約 6200 種のうち、有機鉱物は1%未満しかない非常に珍しい存在だそうです。そのため分析にも、通常の鉱物学だけでなく有機化学の専門的手法が必要となり、共同研究が進められました。まず、コロネン(7つのベンゼン環)を主成分とする既知の有機鉱物カルパタイトを含む試料が確認されました。さらに詳しく調べていくと未知のピークが検出され、炭素 22 個・水素 12 個、すなわち C22H12 という組成が明らかになりました。これはベンゾペリレン(6つのベンゼン環)に相当する成分を含む有機鉱物であり、2023 年に「ホッカイドウアイト(北海道石)」として国際的に承認されました。番組では、MC が目に見えない 365nm の紫外線を岩石に当てると、その光を吸収した鉱物が表面で粒状に黄色く発光する様子が映し出されていました。この鉱物が放つ鮮やかな黄色い蛍光は、まさに自然が生み出した神秘そのものでした。


一方、生物学の観点からも、黄色の獲得には注目すべき話題がありました。カンブリア紀の生物は黒色素胞しか持っていませんでしたが、デボン紀に登場した軟骨魚類などの魚類で初めて「黄色素胞」が獲得されたそうです。さらに現代のメダカなどでは、黄色がメスにアピールする求愛色として働いていることも紹介されていました。このように、まだまだ掘り下げたい話題が多く、黄色の世界の奥行きをあらためて感じました。続きは、また別の機会に書いてみたいと思います。それでは、また。
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注1:NHK『サイエンスZERO』の特集「色シリーズ:黄色」より
