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なぜその声、なぜその音?「聞こえる」は、技術だ──車掌のアナウンスと緊急地震速報に学ぶ、情報伝達の極意 (元教授、定年退職589日目)

関西私鉄を支える車掌さん

大学時代の友人に、関西の私鉄会社へ就職した同期がいました。数年後には本社勤務に移りましたが、入社当初は運転士や車掌として現場を担当していたそうです。卒業後しばらくして行われた OB 会で当時の話を聞くと、彼はとても楽しそうに語ってくれました。特に「停止線にピタリと止められる」と得意げに話していたのを覚えています。クラブ活動でよくふざけ合っていた仲間だったので、人の命を預かる仕事に就いたと聞いたときは少し心配もしましたが、誇りを持って取り組んでいてすごいと思いました。

関西の車掌といえば、お笑い芸人の中川家・礼二さんのものまねでもおなじみです。ご覧になった方も多いでしょう。今では、鉄道ファンが番組で楽しそうに語る光景も珍しくなくなったのも、礼二さんの影響かも知れませんね。


車掌アナウンスと緊急地震速報──音に込められた職人魂

先日、NHK『チコちゃんに叱られる』で「車掌さんの特徴あるアナウンス」と「携帯電話の緊急地震速報」という、いずれも “音” をテーマにした特集が放送されました。どちらも人々に正確かつ迅速に情報を伝える技術であり、非常に興味深いものでした。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

『チコちゃんに叱られる』で車掌さんの特徴あるアナウンスと礼二さん(注1)

まずは車掌のアナウンスについて。「まもなく〇〇です。お忘れ物のないように…」という声は、単なる案内ではなく、乗客に安心感を与え、ときには居眠り中の乗客を目覚めさせる力を持っています。自動放送が主流になった現在でも、大阪メトロ御堂筋線などでは車掌がマイクを握り、自らの肉声で放送する姿が見られます。

<奥様追記> 大阪メトロ御堂筋線では、新大阪止まりの電車がけっこうあります。新大阪に着いた時の「この電車は、この先どこへも参りません」というアナウンスが何かもの悲しくて大好きでした。数年前からセリフが変わってしまいましたが・・・

騒音を突き抜ける「鼻腔共鳴」の科学

番組によると、車掌のアナウンス特有の “鼻にかかった声” は、騒音の中でも明瞭に聞こえるよう工夫された「鼻腔共鳴(びくうきょうめい)」という発声法によるものだそうです。(下写真もどうぞ)

騒音の中でも明瞭に聞こえるよう工夫された車掌のアナウンス(注1)


通常の口腔共鳴に比べて、鼻腔を通すと高音域が強調され、結果として音が騒音に埋もれにくくなります。鉄道の走行音や車輪の擦過音などにかき消されず、乗客の耳に届くように計算された “実用の声” なのです。番組では、車内騒音の周波数と声のスペクトルを比較した図も示されました。通常の声は騒音帯域と重なりやすく聞き取りづらいのに対し、鼻腔共鳴を使うと高周波成分が増え、雑音を突き抜けて届くことが分かります。まさに科学に裏づけられた “通る声” です。(下写真もどうぞ)

鼻腔共鳴(右上) と車内騒音の周波数と声のスペクトル(注1)


明瞭な声を支える技と現場の工夫

この発声法は、声帯に負担をかけずに響きを最大化する技術でもあります。ボイススクールなどでは「ハミング」を通して練習し、鼻腔共鳴を体得する方法が紹介されていました。

一方、近年ではマイクや放送機器の性能向上により、自然な話し方でも十分に伝達できるようになり、過度な抑揚や特徴的な話し方を避ける方針の鉄道会社も増えています。聞き取りにくい放送や “個性の出しすぎ” へのクレームを避けるための配慮でもあります。実際、番組が取材した 52 社のうち、鼻腔共鳴を公式に指導している会社は一社もなかったそうです。それでも現場では、混雑時や窓を開けたときなど、環境に応じて声の高さやスピードを変える工夫をしていると紹介されていました。


命を救う「音」──緊急地震速報の設計思想

次に紹介されたのは、携帯電話の「緊急地震速報」のアラーム音で、番組では「なぜあの音なのか?」という疑問を掘り下げていました。英語では “woop woop-type alarm sound” と呼ばれる甲高い音で、聞いた瞬間に誰もが緊張するあの音です。近い音では、NHK や民放各局のテレビ、ラジオから流れる音もありますが、これは「不安をかき立てるチャイム音」という独特のメロディーです(ちなみに、この音が鳴ると、飼っている犬や猫が一斉に逃げ出したという報告が多数寄せられたそうです)。今回は、前者のアラーム音の方の話です。

緊急地震速報のシステムは、1995 年の阪神淡路大震災をきっかけに開発され、2007 年から携帯電話で配信が始まりました。音の設計を担当したのは音楽家の小久保隆さん。彼は「一人でも多くの命を救う」ことを目的に、この音を作り上げたといいます。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

緊急地震速報のシステムができたきっかけと小久保さん(注1)


音響心理学に基づく3つの原則

このアラーム音は、以下の3つの原則に基づいて設計されています。(下写真もどうぞ)

<スウィープ音> 低音から高音へ急速に変化する音で、救急車のサイレンにも使われる手法です。脳が瞬時に “異常” と判断しやすい特徴があります。

<広い周波数帯域> 携帯電話はポケットやバッグに入れられていることが多く、布を通しても聞こえるよう、低音から高音まで幅広い帯域を含む音が採用されています。

<3回の繰り返し> 心理的に “異常事態” を強調するリズムです。トイレでもノックを2回ではなく3回されると誰もが注意を向けるように、3という回数は人の意識を喚起しやすいのです。

音響心理学に基づく3つの原則(注1)


“怖い音” が持つ意味

地震速報のアラーム音は、瞬時に危機意識を持たせるために、音楽家としていろいろと計算し尽くしされた音だそうです。しかし、その後東日本大震災が起き、揺れに直面した方々から「怖すぎる」など、さまざまな意見が寄せられたそうです。小久保さんは「大変申し訳ないことをしたと反省した時期もありましたが、あの音で救えた命があったのも事実だと思うので、それが僕の誇りです」と語っておられました。

情報を確実に伝えるための「音」。それは、感情を揺さぶるデザインの極致でもあり、その背後には、膨大な科学と技術、そして人の想いが込められているのだと感じました。


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注1:『チコちゃんに叱られる』の特集「車掌さんの特徴あるアナウンス」と「携帯電話の緊急地震速報」より

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