72万年前の空気が告げる警告──南極の氷が記録した「例を見ない現代の異変」 @バックヤード (元教授、定年退職 680日目)
大阪の吹雪から南極へ
昨日は寒波の影響で、普段はほとんど雪の降らない大阪でもさすがに雪模様でした。そんな中、近くの小学校まで選挙の投票に行ってきました(府知事選も同日でした)。ネットの天気予報で「雪の合間」を探して昼頃に家を出たのですが、道中で吹雪に見舞われ、思わずネットを少し恨みました。予報をあまり当てにしすぎるのも問題ですね。ニュースでは京都などでも積雪があったようです。投票所は近隣小学校の体育館で、バスケットボールのリングが妙に低く、懐かしさがこみ上げました。さて今回は「寒いところつながり」で南極の話です(もちろん寒さのレベルは桁違いですが・・・)。NHK『ザ・バックヤード』で、東京都立川市にある国立極地研究所の “裏側” 特集を視聴しました。ここでは、地球の最南端・南極と最北端・北極、二つの極地を対象に研究が行われています。私はこれまで映画『南極物語』を観た程度で、極地についてはほとんど知識がありませんでしたが、昭和基地の存在や、そこでの観測・研究の実態には以前から関心がありました。(下写真もどうぞ)

なぜ南極は北極より寒いのか
番組ではまず、研究所のミッションと観測体制が紹介されました。国立極地研究所は、南極・北極で環境変動、生物、宇宙に関わる観測研究を進めています。昭和基地のライブ映像の監視、1956 年に始まった日本の南極観測の歴史などが示され(上写真, 右下)、季節の逆転や、白夜による就業上の注意点(気をつけないと働きすぎてしまう)にも触れられていました。また、「なぜ南極のほうが北極より寒いのか」という疑問にも説明がありました。南極は大陸で、平均約 2000m の厚い氷床に覆われているため、より強く冷え込むというのです。一方、北極は海氷が中心で、下が海のため気温が下がりにくい。比熱の大きい海水は温まりにくく冷えにくいということですね。(下写真もどうぞ)

地球の謎を解く鍵は氷にあり: 研究所が保存する5万本のタイムカプセル
その後は、南極研究の核心とも言える「氷」の話へ移ります。南極の氷は、積雪が圧密されて層状に蓄積し、最大で 100〜200 万年に相当する古い氷が残ることがあるそうです。深く掘るほど古い氷に到達でき、地層と同じように年代順の記録が得られるため、「地球環境のタイムカプセル」と呼ばれます。直径 10cm ほどのコア(アイスコア)を連続的に掘削し、3000m 級の掘削となると夏季の作業で3年、準備や撤収まで含めると 10 年以上かかるとのことでした。氷の中には火山灰層なども保存され、番組でも氷の柱の中に走る火山灰層を実物で見せてくれ、まさに「地球の記憶」が目に見える瞬間でした。研究所では、このような約5万本のアイスコアを低温室で保存し、変質を防ぐための温度管理を徹底していました。(下写真もどうぞ)

氷が溶ける音は太古の息吹。南極の「空気の化石」が教える地球の歴史
続いて、アイスコアから読み解く気候史の話に移りました。南極から持ち帰った氷を水中に入れると、「プチプチ」と小さく弾ける音が聞こえました。これは、降雪のたびに大気を閉じ込めた「気泡」が氷の中に保存されているためで、いわば “空気の化石” です。この気泡の成分を分析することで、過去の二酸化炭素やメタンの濃度、気温、塵(ダスト)、火山活動など、さまざまな情報が年代順に読み取れます。研究者たちは、そのデータを基準として、現在の地球温暖化が自然変動の範囲内なのか、それとも明確に逸脱しているのかを見分ける「ものさし」を作っていきます。近年は、氷を極めて低速で溶かしながら、粒子・同位体・化学成分を同時に測定する「連続フロー分析」という最先端技術も導入されているとのことでした。(下写真もどうぞ)

氷柱の気泡に封じられた “空気の化石”──72万年の周期と、現代の逸脱
気泡の成分分析から、二酸化炭素やメタン濃度の過去の推移が明らかになり、南極気温やダスト量と合わせて、72 万年にわたる周期的変動が確認されました。番組で示されたグラフ(タイトル写真:注1)では、ピンクが二酸化炭素濃度、緑がメタン濃度、黒が南極の気温でした。これらが長い時間軸で、ほぼ同じ周期で上下してきたことが見てとれます。ところが近代以降、二酸化炭素とメタンの濃度が、その歴史的周期を明らかに逸脱して急上昇しているのです。グラフ上でも数値が振り切れるほどの増加で、地球環境史の中でも「例を見ない」状況であることが直感的にわかります。現在は、将来予測の精度を高めるために、72 万年前よりさらに古い氷の掘削・分析も進められているそうです。(上写真もどうぞ)
南極で火星を拾う──黒い隕石が示す「火星に水があった」証拠
番組ではさらに、南極で発見される火星隕石の研究にも触れられました。私は最初「なぜ南極で火星隕石が?」と不思議に思いましたが、南極では雪原や氷河の白い背景の上に隕石が落ちていると識別しやすいのだそうで、なるほどの理由です。ただし火星由来の隕石は極めて希少で、全体の1%以下とのこと。それでも番組で示された火星隕石は約 13kg と大きいものでした(先日の関西万博日本館でも展示されたそうです)。この隕石は、約 13 億年前に溶岩が固まってでき、約 1000 万年前に火星から飛び出して地球へ到達したと推定されていました。興味深かったのは、隕石内部の鉱物の隙間に粘土鉱物が確認された点です。粘土の生成には水が不可欠ですから、これは「火星に水があった」ことの直接的な証拠になり得ます。水は生命の前提条件の一つですから、過去の火星での生物存在可能性を示唆する発見かも知れません。(下写真もどうぞ)

ペンギンは 564m、 32 分潜る
最後は、極地動物の生態研究と、それを環境指標として活用する試みが紹介されました。南極に生息するコウテイペンギンとアデリーペンギンの話です。背部カメラなどを装着して行動を記録するバイオロギングにより、コウテイペンギンは深さ 564m、最長 32 分も潜水できることがわかったそうです。鳥類の中でも最高レベルの潜水能力でした。また、アデリーペンギンの採餌行動も詳細に観察できるようになり、氷山の脇を泳ぎながら付着したヨコエビを一匹ずつついばむ様子、水中で大型魚を一気に捕食する行動などが記録されていました。こうしたデータを、暖流の侵入などの環境変化と生態系の応答の指標として用い、環境保全に資する情報を蓄積していくことを目指しているとのことです。(下写真もどうぞ)

私もこれまでさまざまな水族館でペンギンを見てきましたが、それはどうしても “人間が作った環境” の中での観察でした。今回のバイオロギングは、野生の時間と場所に入り込み、その生活の手触りを直接つかむ手法です。ここから得られるデータが、極地の環境を守るための支えになっていければ良いなと思いました。それでは、また。
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注1:NHK『ザ・バックヤード』の特集「国立極地研究所」より
