毎日食べているセブンの「皮むきりんご」──その鮮度の秘密は東京農大の研究にあった?(元教授、定年退職468日目)
コンビニのリンゴは袋の中でなぜ変色しないのか?
以前の note でも少し紹介しましたが、30 年前、アメリカ・コーネル大学へ留学していた頃、大学併設の農場の大きな樽から汲んだリンゴジュースを、時々ガロン瓶で購入していました。搾りたては特に美味しかったのですが、冷蔵庫に保管していても徐々に味が(色も)変わっていき、1週間もするとワインのような風味に変わっていました(それはそれで美味しかったのですが)。一方、最近の私はというと、毎日のようにセブンイレブンで「皮むきりんご」を購入しています(タイトル写真)。不精な性格ゆえ、自分でリンゴを剥くことも少なくなりました。この商品は、リンゴ約半個分を一口サイズにカットし、皮を剥いた状態でパックされています。私はヨーグルトに入れたり、そのまま食べたりと実に重宝しています。しかし、ここでひとつ疑問がありました。通常、リンゴは切ってしばらく置いておくだけで酸化して茶色く変色してしまうはずです。にもかかわらず、この「皮むきりんご」は袋の中では数日経っても見た目も味もほとんど変わらず、シャキシャキした食感まで保たれているのです。なぜなのか。その答えは、意外なところで明らかになりました。
NHK『ザ・バックヤード』で出会った東京農大の研究
先日放送された NHK『ザ・バックヤード』で、「東京農業大学」の特集が組まれていました。実は私の知人の先生もこの大学に在籍されていたことがあり(定年退職されました)、懐かしさから視聴を始めました。私にとって東京農大といえば、正月の箱根駅伝や名物の「大根踊り」のイメージが強かったのですが、研究を熱心にする大学であることはその先生から聞いていました。番組では、それらの中からいくつかの特徴ある研究をピックアップしていました。その中に、驚いたことになんと自分が毎日食べている「セブンプレミアム 皮むきりんご」のパッケージが、ちらりと映ったのです。(下写真もどうぞ)

「皮むきりんご」の鮮度を支える技術
セブンイレブンのウェブサイトによれば、この商品は「皮をむいて食べやすい大きさにカットしたりんごで、外出時や忙しい朝など、手軽に果物が食べられる」と紹介されています。鮮度維持の秘訣としては「収穫後の貯蔵方法と店舗への低温輸送管理の徹底」が挙げられていますが、これだけではあの “変色しないリンゴ” の秘密は解けません。番組では、同大学農学科の吉田先生らによるカットフルーツの鮮度保持研究が紹介されていました。リンゴをはじめとする果実は、収穫後も生命体として活動を続けており、この活動こそが品質劣化の直接的な原因となるのです。リンゴの “生” を維持しながら巧みに管理・制御することが研究の核心です。(* セブンイレブンの商品が、この研究と直接関係しているかは不明です。NHK なのでそこには触れられませんでしたが、多分?)
まず注目すべきは、「呼吸」と「蒸散」の制御です。呼吸は、果実が糖や有機酸を消費して二酸化炭素と水と熱を放出するプロセスであり、これが進むほど味や栄養価が低下していきます。また、蒸散は果実から水分が失われる現象で、しなびや変色の原因になります。
袋内の気体バランス調整とフィルム素材の科学
吉田先生らは、保存期間の延長を目指し、まず袋内の気体の濃度調整を中心とした実験を行っていました。具体的には、従来の空気状態とガス調整状態のリンゴの保存状態の違いを検討しました。地球の大気はおよそ酸素が2割、二酸化炭素や窒素が8割ですが、袋内の酸素、二酸化炭素、窒素の割合を調節して、最適な気体バランスを探求したのです。たとえば、酸素濃度を下げすぎると “窒息” で食味が損なわれ、逆に高すぎると酸化が進んで変色してしまいます。結果の詳細は未公表でしたが、最適条件での実験では、7日前にガス封入したリンゴサンプルの色の保持状態(切りたてのような美しさ)とシャキシャキとした食感が確認されました。今後は、これを2週間に延長することを目指しているとのことでした。(下写真もどうぞ)


袋の材質や特性が気体の出入りに影響する点に注目して、年間 300 個のリンゴを研究で使用し、スーパー・コンビニで販売される 1000 枚以上の袋の特性も調査していました。袋がどの気体を通しやすいかにより酸化を防ぐことができるからです。また、果物によって呼吸する空気の量に違いがあるため、それぞれに最適な袋が必要という点も興味深い指摘でした。
幻の果実・ペピーノにも新たな息吹
番組ではさらに、農学科の別の研究室で行われていた南米原産「ペピーノ」の研究も紹介されていました。ナス科の果実で、かつては甘みの弱さから市場では不評だったものの、栄養価は高く(アスパラギン酸はレモンの6倍、β-カロテンはみかんの3倍)、その魅力を生かすべく糖度向上の工夫がなされていました。ユニークだったのは、苗の根元に直径5mm のワッシャーをはめるという技術。これにより根からの水分吸収が抑えられ、果実の水っぽさが軽減、糖度は 3% もアップしたとのこと。レポーターの「甘さが、スイカの皮から、中心の赤い甘い部分に変わったほどの変化」との表現は印象的でした。(下写真もどうぞ)


身近なコンビニのカットリンゴから、東京農大の素晴らしい研究成果の一端を見せてもらいました。研究の積み重ねの結果を食べていると思うと、リンゴの味も格別です。科学の力で果物がもっと美味しく、もっと長く楽しめるようになれば、フードロスの削減やコスト低減にもつながっていくことでしょう。それでは、また。
ーーーー
注1:NHK「ザ・バックヤード」の特集「東京農業大学」より
