なぜダムは人を惹きつけるのか?──記憶のなかの天ヶ瀬/黒部と、進化する宮ヶ瀬の環境保全設備(元教授、定年退職826日目)
あの夏、ダムで涼もうとした話
1ヶ月ほど前に、『ブラタモリ』で宇治の「平等院鳳凰堂」について書かせていただきました。そのときに綴ったのは、学生時代に宇治近くの黄檗という場所で地獄のような夏合宿をしていた時のことで、2回生時の休憩場所が「平等院」だったという話でした。その後、もう一つ思い出したことがありました。それは、翌年の夏合宿のことです。3回生にもなると、そろそろ車を所有する者もちらほら現れ、合宿の休日に涼しいところへ行こうという話になりました。そこで話題に上ったのが、宇治川の上流にある「天ヶ瀬ダム」でした。京都出身の友人は、小学校の遠足で行ったことがあると言い、「それなら涼みに行こう」となったわけです。私のイメージでは、ダムは山の上の見晴らしのよい場所にあり、ゆっくり涼めるところだと思っていました。しかし、車に便乗して山道を登り始めると、なんと 10〜20 分ほどであっという間に着いてしまいました。確かにダムからの眺めは素晴らしかったのですが、暑さはあまり変わらず、少しがっかりしたことを覚えています。はっきりとは覚えていませんが、ダムの上で少し休んだだけで、すごすごと帰ってきたのでした。
思い出の黒部ダムと長野・大町での夏合宿
その後、私たちが訪れたダムが、あの「黒部ダム」でした。その年、京都での一次合宿のあと、「涼しい場所で練習しよう」ということで、初めて長野県大町市で第二次合宿を行いました。私は大学正門から出発するとき、急遽頼み込んで車に乗せてもらいました。するとラッキーなことに、合宿地へ向かう途中、大町市から約 20 キロメートルのところにある黒部ダムに寄ってくれたのです。黒部ダムは標高 1500 メートルほどの黒部峡谷に立地していたので、天ヶ瀬ダムとは違ってとても涼しく、半袖で行った私たちには寒いくらいで驚きました。ダムの高さ(堤高)は 186 メートル、幅は 500 メートルほどで、日本で最も堤高の高いダムだそうです。また、北陸屈指の人造湖である「黒部湖」も見事でした。とはいえ、高所恐怖症の私は、ダムの上の通路でもあまり端には近づけず、今思えばもったいないことをしました。それでも、そのスケールの大きさには大いに感激しました。どこかに写真が残っているはずなのですが、今回は見つけることができませんでした。
ちなみに、合宿で訪れた大町は、その年はかなり暑く、昼間は京都並みでした。それでも湿度は低く、朝晩も涼しかったので、練習に力が入りました。残念ながら、その後の大会ではあえなく一回戦敗退となり、合宿の成果は出せずじまいでした。ただ、後で聞いた話によると、ある先輩がその合宿所に手伝いに名古屋から来ていた女子学生と仲良くなり、その後結婚されたそうです。そう考えると、それこそが合宿の大きな成果だったのかもしれません。ちなみに、数年前の OB 会でそのご夫妻にお会いし、そのときのことを初めて教えてもらいました(笑)。
『ザ・バックヤード』で知った宮ヶ瀬ダム
いつものように前置きが長くなってしまいましたが、そんなダムの話を NHK『ザ・バックヤード』で視聴しました。今回の案内役は、お笑い芸人のアンガールズ・田中卓志さんでした。田中さんは広島大学工学部で建築を学び、昨年には二級建築士の試験にも合格した、芸能界きっての建築好きです。今回の舞台は、日本一の観光客数、年間 160 万人を誇る宮ヶ瀬ダムでした。神奈川県愛川町に位置する宮ヶ瀬ダムは、相模川水系中津川に建設された、首都圏最大級の多目的重力式コンクリートダムです。貯水容量は約2億立方メートルに達し、横浜や川崎などの巨大都市を含む 21 自治体の水をまかなっています。さらに、相模川沿岸の洪水調節を担い、およそ2万世帯分の電気も生み出す多目的ダムです。宮ヶ瀬ダムは 2001 年に運用を開始した、比較的新しいダムです。重力式コンクリートダムを採用しており、ダム自体の重さで水圧に耐える堅牢な設計が特徴だそうです。堤高は 156 メートルで日本6位、コンクリート使用量は 200 万立方メートルで日本一なのだそうです。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)


宮ヶ瀬ダムに見る 21 世紀型の環境保全
番組ではまず、田中さんたちがインクラインを使ってダムの頂上へ向かいました。このインクラインは、建設時にダンプが乗れるケーブルカーとして使われていた設備を再利用したものです。そこからは、ダムの壁面やダム湖を間近に観察でき、構造形式やコンクリート量の説明と合わせて、土木・建築的な学習体験にもなっていました。宮ヶ瀬ダムの大きな特徴は、21 世紀型の環境保全設備として、環境負荷を最小限に抑える工夫が数多く備えられていることでした。番組では、その中から「選択取水設備」と「副ダム」が紹介されました。
まず「選択取水設備」では、放流時に下流の生態系へ急激な影響を与えないようにする工夫がなされていました。ダム湖では、表層の水温が夏期には約 30℃ になる一方、深層では約 10℃ と大きな差があります。そのため、ワイヤーと蛇腹式の管を伸縮させ、下流の川の水温に最も近い水深から取水する仕組みになっているのです。24 時間体制で水温を監視し、最適な水深を選んでいるそうです。(下写真もどうぞ)

また、「副ダム」の存在も、環境保全の面で重要です。この副ダムは高さ 34.5 メートルの独立したダムで、本ダムから放流されるすさまじい水の勢いを弱め、下流の地形侵食を防いでいました。さらに逆調整池として放流量を平準化し、発電機能も備えています。驚いたのは、副ダムの下流に、さらに減勢設備の「副々ダム」まで設けられていることでした。そこまでして地形侵食を防ぎ、下流環境の長期的な安定を確保しているという、実に配慮されたシステムでした。(下写真もどうぞ)

宮ヶ瀬ダム、驚きのバックヤード
ダム内部には管理用通路が張り巡らされており、その総延長は約2キロメートルにも及びます。内部ではモノレールで各点検ポイントを結び、月に1回、約 100 か所を目視確認していました。番組では、田中さんも一緒に点検作業を体験していました。彼が見つけた「亀裂」のようなものは、実は建設時に意図的に設けられた継ぎ目で、熱膨張の逃げを確保するためのものでした。そこでは上下の目盛りのずれを計測し、開閉の変化を監視することで、ダムの状態を継続的に確認しているのです。さらに、浸出水や揚圧力の監視も行われていました。最後に紹介されたのは、頂上から約 135 メートルのワイヤーを垂直に吊り下げ、ダムの変形に伴うワイヤーの移動量を精密に測定する装置でした。非常に微小な変化を読み取るため、接触はもちろん、息を吹きかけたり大声も避けるという厳密な運用がなされているそうです。(下写真もどうぞ)

宮ヶ瀬ダムのインフラ観光
宮ヶ瀬ダムは、「インフラ観光」の先駆けでもあります。最大の魅力は2条のゲートから、毎秒 30 立方メートルの水を、標高差約 70 メートルの高さから6分間流し落とす「観光放流」です。これはまさに、ダムならではの迫力を体感できるイベントです。また、ダム内部は年間を通して気温約 10℃、湿度約 90% で一定しており、日光も入らないため、貯蔵に適した環境でもあります。その条件を活かし、地元酒蔵の日本酒や隣接牧場のゴーダチーズを熟成させるという、特産品開発による地域活性化も進められていました。
さらに、周囲の飲食店では、放流のダイナミズムを再現した「宮ヶ瀬ダム放流カレー」や「宮ヶ瀬ダムカレー」が人気を集めているそうです。ご飯で作られたダムに穴を開けると、カレーが放流される仕掛けになっているようで、これは楽しそうですね。それでは、また。(下写真もどうぞ)

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注1:NHK『ザ・バックヤード』の特集「宮ヶ瀬ダム」より
注2:宮ヶ瀬ダム Lake Side Cafe. ホームページよりhttps://lakesidecafe.co.jp/index.php
