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コアラはどこ? 犯人はどこへ?──匂いをたどるプロフェッショナル:コアラ探知犬と警察犬の最前線 (元教授、定年退職522日目)

麻薬探知犬との遭遇体験

以前、空港で麻薬探知犬を見かけたことがあります。到着ロビーで、無数のスーツケースや人々の間を縫うように、静かに、しかし一切の無駄のない動きで嗅ぎ分けていく犬たち。探知犬の真剣な眼差しを間近にすると、通り過ぎただけなのに妙にドキッとし(もちろん何も後ろめたいことはないのですが)、不思議と背筋が伸びたのを今でも覚えています。


『犬のおしごと』で知る、探知犬が支えるコアラ保護の最前線

先日、NHK の『犬のおしごと』という番組で、オーストラリアのユーカリの森で行われている「コアラ探知犬」による保護活動を紹介していました。コアラの生息状況を調査し、記録するために、犬の圧倒的な嗅覚を活用する取り組みです。オーストラリア・ニューサウスウェールズ州では、2050 年までに野生のコアラが絶滅する可能性があると警告されています。原因は、生息地の喪失、気候変動、病気、そして森林火災。特に、2019〜2020 年にかけてオーストラリアを襲った大規模森林火災では、1,700 万ヘクタール以上が焼失し、10 億を超える動物が命を落とすという未曾有の被害をもたらしました。この大火災の際、焼けた森に取り残されたコアラを見つけ出したのが、探知犬たちだったのです。人間には到底不可能なスピードと精度で、犬たちは微かな匂いを頼りにコアラの居場所を突き止めました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

『犬のおしごと』でオーストラリアのユーカリの森で「コアラ探知犬」特集(注1)


ユーカリの森の守り神: GPS首輪をつけた探知犬たち

番組で登場したのは、5歳のイングリッシュ・スプリンガー・スパニエル。首には GPS トラッカー付きの首輪を装着し、森の中を駆け回ります。彼らの任務は、新しいコアラの糞を発見すること。前夜か当日に落ちたばかりの新鮮な糞を見つけることで、コアラが今も近くに生息していることを突き止めるのです。発見した糞の場所は詳細に記録され、州政府のコアラデータベースに提供されます。さらに夜間には、研究員たちが暗視スコープを駆使して、木の上に潜むコアラの親子を確認します。犬と人間、それぞれの「鼻」と「目」を組み合わせることで、初めて正確な生息状況が把握できるのです。こうしたオーストラリアのコアラ探知犬プログラムは、世界的にも先端的なモデルとして注目されています。(下写真もどうぞ)

犬の任務は、新しいコアラの糞を発見すること(注1)

<追記> 糞にはコアラの DNA やホルモンが含まれており、これを分析することで、個体ごとの識別、遺伝的多様性の把握、健康状態や感染症リスクの評価、性別の判定の情報が得られます。これらのデータは、生息地保全計画や野生生物の回廊設計、個体群管理の意思決定に直接反映されます。まさに「匂いの科学」が、保護政策の根幹を支えているのです。


犬の嗅覚は人間の10万倍

では、なぜ犬の鼻がこれほどまでに優れているのでしょうか。その理由は、犬の鼻の構造にあります。人間よりもはるかに多くの嗅覚受容体を備えており、嗅覚情報を処理する脳領域も人間の約 40 倍の体積を持ちます。さらに、呼吸と嗅覚を分けて行う特殊な鼻腔構造により、連続的に匂いを嗅ぎ続けることが可能です。ある研究によると、コアラの糞を探す探知犬は 100% の精度を達成し、人間のみのチームと比較して約 20 倍効率的でした(人間3人が1時間かけて目視で捜索する範囲を、犬はわずか5分でカバーすることができます)。まさに「匂いのプロフェッショナル」と呼ぶにふさわしい存在です。


『ザ・バックヤード』で見た警察犬訓練の最前線

犬の嗅覚が活躍するのは、自然保護だけではありません。先日、NHK の『ザ・バックヤード』で「警察犬訓練所」の特集を視聴しました。舞台は、警視庁東大和庁舎にある警察犬訓練所。東京都内では、警察犬の出動件数が年々増加しており、現在では1日におよそ2件の出動要請があるそうです。(下写真もどうぞ)

『ザ・バックヤード』で「警察犬訓練所」の特集(注2)


警察犬になるための服従訓練

一人前の警察犬になるには、服従訓練と嗅覚訓練の2つをクリアしなければなりません(上写真)。服従訓練では、「立て」「座れ」「待て」などの基本動作を習得するほか、ハンドラーとの信頼関係を築くことが重視されます。番組ではジャーマン・シェパードが演技を披露していました。ポイントは、失敗した場合は叱らず、必ず成功体験で終わらせること。それは、犬が萎縮してしまうと次の作業に集中できなくなるからです。訓練はゲーム感覚を取り入れ、犬種ごとの特性を活かして進められます。例えば、ジャーマン・シェパードは追跡能力に優れ、ラブラドールは屋内での捜索に適しているのです。


「鼻の捜査官」が挑む匂い識別訓練

番組では、マジックミラー越しの部屋で、5つの布の中から特定の匂いを嗅ぎ分ける訓練の様子も紹介されました。初対面のゲストの匂いをサンプルにして訓練したのですが、犬はわずか数秒で正解を見抜きます。成功したときにお腹を見せて喜ぶ犬の姿がとても印象的でした。さらに、模擬家屋を使った薬物捜索訓練も実施されました。ラブラドールが狭い場所を巧みに動き回り、隠された薬物をわずか3分で発見。まさに即戦力です。(下写真もどうぞ)

5つの布の中から特定の匂いを嗅ぎ分ける訓練。成功して喜ぶ(注2)


犯人追跡と行方不明者捜索

逃走した犯人や行方不明者の捜索訓練も紹介されました。ゲストが複雑なルートを 100 メートル歩き、マンホールに隠れるという設定です。ジャーマン・シェパードは足跡に残る微細な匂いを辿り、わずか3分で発見。靴裏や草葉に残る匂いまで検知して追跡していることがカメラ映像で確認されました。実際、過去にはこの訓練で培った能力を生かし、病院から行方不明になった高齢者を発見した事例もあるそうです。(下写真もどうぞ)

薬物捜索訓練、行方不明者の捜索訓練、食事とトイレ事情(注2)


犬たちの食事とトイレ事情

番組の最後では、警察犬の日常も紹介されました。食事は犬ごとに最適化され、食後には歩行状態を確認する健康チェックも兼ねたトイレタイムがあります。印象的だったのは、犬が名前を呼ばれると自らトイレに入り、担当官がそっとドアを閉めるシーン。人間のような可愛らしい一面に思わず微笑んでしまいました。(上写真もどうぞ)


探知犬は、自然保護から治安維持まで、人間社会のあらゆる場面で欠かせない存在です。科学的知見と訓練技術が進化する中で、彼らの役割はさらに広がっていくでしょう。


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注1:NHK『犬のおしごと』の特集「オーストラリア・コアラ探知犬」より
注2:NHK『ザ・バックヤード』の特集「警察犬訓練所」より

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