MLB の「センターゴロ併殺」に驚く──勝敗を左右するカットプレーの真髄とは @球辞苑 (元教授、定年退職 710日目)
走者一掃のはずが0点──ブルワーズ守備が魅せた超連携
昨年の MLB のワールドシリーズは大変見応えがあり、とりわけ最終戦は、私がこれまで観てきた数多くの試合の中でも五本の指に入るほどの激闘でした。今年もまた、どのようなドラマが生まれるのか楽しみにしています。そんな MLB の試合の中で、特に印象に残ったのが、昨年 10月14日 にアメリカンファミリー・フィールドで行われた、ミルウォーキー・ブルワーズ対ロサンゼルス・ドジャースのナ・リーグ優勝決定シリーズ第1戦でした。この試合は、アシュビーとスネルの両先発による緊迫した投手戦でした。両軍無得点で迎えた四回表、ドジャースは一死満塁の好機をつくります。打席にはマンシー。放たれた打球は中堅後方へ伸びる大飛球で、私は正直、走者一掃の長打になったと思いました。中堅手フレリックはフェンス際まで追ってジャンピングキャッチを試みますが、打球はグラブに当たってこぼれます。ところが、その後のブルワーズ守備陣の動きが見事でした。フレリックはすぐに中継に返球します。この間に、三塁走者のテオスカー・ヘルナンデスは一度三塁へ戻ってしまい、本塁突入が遅れました。ブルワーズはこの隙を逃さず、本塁で走者を刺します。さらに二塁走者のスミスも三塁へ進みきれておらず、捕手コントレラスがそのまま三塁ベースを踏んでアウト。結果は、何と「センターゴロ併殺」という形になり、この回無得点に終わったのです。見ているこちらとしては、大飛球がこぼれた瞬間に得点が入ったものと思い込み、拍手までしていました。それだけに、アウトの判定では一瞬何が起きたのかわからず呆然としました。しかしブルワーズ側から見れば、これは相手の走塁ミスを見逃さず、理想的な中継プレーを完成させた好守だったのです。選手たちがハイタッチを交わしていたのも、よく分かります。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)


<追記1> この試合はその後も白熱しましたが、ドジャースはスネルの好投とフリーマンの一発などで2対1の勝利を収めました。こうした大きなプレーがあると流れが一変しがちですが、それでも崩れず勝ち切るあたりに、強豪らしさがあるのだと思います。
『球辞苑』で知る、「カットプレー」の奥深さ
そんなこともあって、今回はこの「中継プレー」、いわゆる日本でいう「カットプレー」について少し書いてみたいと思います(MLBでは「カットオフプレー」と呼ぶ)。先日、NHK BS『球辞苑』でこの特集を視聴しました。番組では、内外野の連携技術やコーチャーの判断、成功率の低さの理由などが多角的に取り上げられており、改めてこのプレーの奥深さを感じました。テレビ中継ではどうしても打球を追う映像が中心になるため、守備全体の配置や連動は見えにくいのですが、実際には非常に高度な組織プレーが展開されているのです。(下写真もどうぞ)

野球におけるカットプレーは、単に外野から内野へボールをつなぐ技術ではありません。そこには、チーム全体の戦略、選手個々の身体能力、そして一瞬の判断力が凝縮されています。アウトにできる確率は決して高くなく、だからこそ成功した時の価値が大きいのです。球場で守備陣全体の動きを俯瞰して見ると、そのダイナミズムや緻密な連携の妙がよく分かります。私も大学時代にソフトボールを選手、そして監督として経験しましたので、その面白さには大いに共感します。もっとも、私の守備位置はサードでしたので、実際にカットプレーの中心を担うことはありませんでしたが。
カットプレーの本質と高度な技術
カットプレーの本質は、広い外野でいったん勢いを失いかけた送球を、内野手が受けて再加速させることにあります。外野手が無理にダイレクトで本塁を狙えば、送球が失速したり、ワンバウンドになったり、悪送球になる危険が高まります。そこで中継役の内野手が最適な位置に入り、低く鋭い送球を次につなぐことで、結果として到達時間を縮めるわけです。これは単なる「中継」ではなく、送球の質を保ちながら、プレー全体の精度を高める重要な工程なのです。
なかでも重要なのがカットマンの内野手です。打球の方向、外野手の捕球位置、走者の動き、送球先までを瞬時に把握し、最も効率のよいライン上「逆くの字」の位置に入らなければなりません。しかも捕ってから投げるまでの動作は極力短くしなければならず、体の向きや足運びにも高い技術が求められます。名手たちが語るように、軸足への体重の乗せ方ひとつで、送球の強さも正確さも変わってきます。一方、外野手にも重要な役割があります。次の動作に入りやすい位置、すなわちカットマンの胸元へ正確に投げ込むことが基本であり、これが乱れると一連のプレーは崩れてしまいます。(下写真もどうぞ)

<追記2> この中継プレーには「心理的な抑止力」もあります。肩の強い遊撃手が深い位置までカットに入ってくるだけで、三塁コーチや走者は本塁突入をためらいます。つまり、実際にアウトを取れなくても、その存在だけで追加進塁を防ぐ効果があるのです。(上写真もどうぞ)
日本の「設計美」vs MLB の「身体能力」
日本のカットプレーは、複数の選手の細かなポジショニングやバックアップを含めた、非常に「設計された守備」として語られることが多いです。全体の約束事が徹底されていて、見ていて美しさすら感じます。一方、MLB では長らく、選手の肩の強さや判断力、身体能力に依存する場面が目立ってきました。その象徴としてよく語られるのが、ヤンキースのジーターによる「ザ・フリップ」です。本来その場にいるはずのない遊撃手が一塁線近くまで走り込み、捕球してそのまま逆向きのトスで本塁へ返す。あのプレーには、システムだけでは説明しきれない直感と身体能力が凝縮されていました。もっとも、最近の MLB はデータ活用が進み、中継プレーは以前よりかなりシステマチックになってきているようです。それは勝利を目指すうえで当然の流れでしょう。ただ、私はどこかで、MLB には MLB らしい規格外の身体能力や、とっさのひらめきが生むプレーも残っていてほしいという気持ちもあります。(下写真もどうぞ)

先日の「センターゴロ併殺」のような場面を見ると、派手なホームランや豪速球の陰で、こうした一瞬の連携が試合の流れを大きく左右する。その奥深さも野球の醍醐味の一つなのです。来週からは、WBC はアメリカで準々決勝です。それもまた、楽しみですね。
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注1:NHK BS『球辞苑』の特集「カットプレー」より
