ウニは海の悪役? それとも人類を救う救世主?──ウニがもたらす美食と医療分野での最前線 @ヴィラン(元教授、定年退職755日目)
子どもに嫌われ、大人を魅了する──ウニの “味覚ギャップ”
以前、NHK『ザ・バックヤード』の特集「神奈川県水産技術センター」を視聴し、トラフグの暗闇養殖とともに、ウニによる磯焼け被害やキャベツを食べるウニの話を note で綴りました。今回は、NHK『ヴィランの言い分』で、悪者(ヴィラン) としてのウニが取り上げられていました。番組ではまず、子どもの嫌いな食材ランキングが紹介されました。ウニは海産物で唯一7位に入っており、「海の生き物きっての嫌われ者」として扱われていました。一方、大人にとっては高級寿司ネタの代表格です。寿司屋で「何でも好きなものを頼んでいいぞ」と見栄を張ったところ、「ではウニを」と言われて「おいおい」となる、という MC 八嶋智人さんの話にも笑ってしまいました。さらにウニは、日本の寿司や刺身、うに丼にとどまらず、現在では「海のフォアグラ」として世界の美食家からも支持を集めているそうです。フランスでは新鮮な生ウニをフランスパンにのせたり、ムースやオランデーズソースに加工したりします。イタリアではリゾットやパスタのうま味として活用されます。それほどの食材が、子どもには嫌われているというギャップが面白いところです。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

実際、私も子どもの頃は、ウニ特有の磯くささがあまり得意ではありませんでした。それが好きになったのは、30 歳になった頃だったと思います。北海道で学会があり、札幌のホテル近くにあった二条市場へ学生たちと何度か出かけました。その時、シャケとイクラの親子丼などとともに食べたウニ丼の美味しさに驚いたのです。磯くささなどまったくなく、クリームのようなトローリとした食感で、まさにテレビの食レポで聞くように「甘かった」のです。それ以降、好物になりました。ただ残念ながら、寿司屋で時価のウニをいただいたことはほとんどありません。
意外と知らないウニの精巧な身体構造
番組では、ウニの体の構造も詳しく説明されていました。たとえば私は、ウニのトゲはすべて同じ種類だと思っていましたが、実は3種類あるそうです。普通のトゲのほかに、先端がハサミの形をした「叉棘(さきょく)」があります。体表面にゴミなどが引っかかると、この叉棘が UFOキャッチャーのように異物をつかんで捨てるのです。天敵に対する防御にも使われると言われています。また、トゲの間から伸びているのが「管足」です。その先端は吸盤になっており、海藻を引き寄せたり、波に流されないよう岩にしがみついたりできます。ウニはただトゲだらけでじっとしている生き物ではなく、さまざまな道具を使い分けて生きているのです。さらに、ウニには上下があり、口や肛門、内臓といった内部構造もきちんと備わっています。ちなみに、私たちが食べている黄色い部分は、生殖巣です。あらためて見ると、ウニは非常に精巧な構造を持つ生き物であることがわかります。(下写真もどうぞ)

<追記> 地球温暖化による海水温の上昇で、ウニの代謝が促進され、本来7〜8月である繁殖期が6〜9月へ延びるなど、活動が異常なまでに活発化しているそうです。その結果、大量発生したウニが浅瀬の海藻を根こそぎ食べ尽くす「磯焼け(海の砂漠化)」が、日本を含む世界各地で深刻化しています。豊かな藻場が失われると、そこに生息していた多様な魚介類にも大きな打撃を与えます。さらに、海藻が二酸化炭素を吸収する「ブルーカーボン」の機能も失われます。一方、海藻を食べ尽くしたウニ自身も極度の飢餓状態となり、食用部位が発達しない「痩せウニ」になってしまうそうです。(上写真、右下もどうぞ)
三浦キャベツに青森酒粕、沖縄マンゴー ──“ご当地給餌” で生まれる新世代ウニ
番組でヴィランとして登場したウニは、自らの「言い分」を語り始めました。ウニ特有の磯くささや苦味は、本来の餌である海藻に含まれる匂い成分「ヘキサナール」が身に移ることが原因だそうです。つまり、海藻以外の餌を与えることで、味を大きく改善できるというのです。たとえば、キャベツを餌にした場合、苦味が格段に減り、甘みが増すそうです。ゲストたちも実際に試食していましたが、磯臭さが抑えられ、ほのかにキャベツの香りを感じてウニが苦手な人でも食べやすいと好評でした。また、讃岐うどんを与えたウニも、苦味がなくなり、味が濃くまろやかでうま味が強く感じられるようになったようです。(下写真もどうぞ)

この取り組みでは、三浦半島などで変色や傷を理由に廃棄される予定だった規格外キャベツが餌として活用されています。つまり、フードロス削減にもつながっているのです。さらに、ウニを除去して蓄養することで、藻場の回復も期待できます。藻場が戻れば、海藻が二酸化炭素を吸収する機能も復活します。陸のフードロス削減と海の環境保全を同時に実現する、画期的な取り組みと言えそうです。
トゲも殻も役に立つ──ウニが秘める医療分野での可能性
ヴィランとしてのウニのもう一つの「言い分」は、トゲや殻が医療分野で研究・活用されていることでした。難病の治療や骨の再生に役立つ可能性があるというのです。
一つは、ウニのトゲに含まれる色素「エキノクローム」の医療応用です。エキノクロームには、体内の過剰な活性酸素を抑え、炎症を軽減する働きがあるそうです。そのため、失明の危険もある目の難病「ぶどう膜炎」の治療薬として期待されています。動物実験では、ぶどう膜炎の症状を抑えるだけでなく副作用が少ない可能性も示され、研究が進められていました。(下写真もどうぞ)

もう一つは、廃棄されるウニの殻、つまり骨格の骨再生医療への活用です。ウニの骨格は人間の骨とよく似た多孔質構造を持っています。破骨細胞などが通る大きな穴と、血液や栄養が通る小さな穴が複雑に入り組んでいるのだそうです。番組では、漂白と特殊加工の様子も紹介されていました。ウニを漂白剤につけると、タンパク質が溶け、1時間ほどでトゲがぼろぼろと落ちていきます。すると、草間彌生さんのカボチャ作品を思わせるようなウニの骨格が現れました。これを特殊加工して骨再生ブロックを作り、骨折などの欠損部位の足場として埋め込むと、細胞が活動し、新しい骨の修復が進むことが培養実験で確認されていました。(下写真もどうぞ)

このように、危険なトゲや廃棄物と思われがちなウニの部位が、人間を救う医療材料として新たな価値を生み出しつつあることに驚かされます。
マンゴーを食べるウニは甘いのか
今回の特集で、私が特に興味を持ったのは、全国各地でさまざまな食材を与えて育てる、いわば「ご当地ウニ」の養殖です。番組で紹介された上図によると、北海道ではアスパラガス、青森県では酒粕、沖縄ではマンゴーなどが挙げられていました。ウニがこれほど雑食だとは思っていなかったので、かなり衝撃的でした。高級食材であるウニが、また別の高級食材を食べて育つというのも面白いところです。特にフルーツのマンゴーを食べたウニなどは、いかにも美味しくなりそうな気がします。いつかぜひ、食べてみたいものです。それでは、また。
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注1:NHK『ヴィランの言い分』の特集「ウニ」より
