見出し画像

■第5 最終章 静かに問う

夜が深くなると、街はほとんど動かなくなる。

灯りは抑えられ、人の気配は薄くなる。
すべてが休んでいるように見える時間。

けれど、その静けさの中でも、ひとつだけ続いているものがある。

それは「明日の謝罪」だった。

今日一日、自分はあの箇所が至らなかった。

そのことで関係が、崩れていなかったか。
余計な揺を与えてしまった。

明日、あの部分は修正しなければ。眠りに入る直前にそれに気づく。


朝から夜までの出来事が、一本の流れとしてではなく、
小さな修正の連続として思い出される。

少しずつ言い直し、少しずつ調整し、少しずつ整えてきた時間。

そのどれもが間違いではない。

むしろ正しいとされるものだった。

だからこそ、やめる理由も見つからない。

問題が起きていないことが最も重要だった。

その論理の中では、疑問もまた調整の対象になる。

疑問が生まれたとき、それはすぐに内側で処理される。

考えすぎないように。
過剰にならないように。
自然な範囲に戻るように。

その仕組みは、とても静かだった。

そして静かであるがゆえに、誰もそれを異常とは感じない。

夜の終わりには、ひとつの感覚だけが残る。

今日も大きな問題はなかった、という感覚。

しかしその感覚の中には、説明しにくい重さがある。

すべてがうまくいっているはずなのに、どこかだけが少しだけ空いているような感覚。

キョウコは言葉にしない。

言葉にした瞬間、それもまた調整してしまうからだ。

やがて街は、完全な静けさに入る。

終わりでもなく、一時停止でもない。

明日も、同じように始めるための準備だった。

キョウコは疑わない。

朝が来れば、また同じように整い始めることを。