ララちゃん海へ行く
【ララちゃんシリーズ4】
「そーら!海だぞ!!」
パパはそう叫ぶと、
ワゴン車の外からガラッと
ドアをスライドさせた。
「わーーーーい!!」
末娘のモモちゃんが、元気よく飛び降りた。
姉のスミレさんは、サンドイッチが
一杯詰まったバスケットを抱え、
ママはビーチマットやタオルが入った
大きなバッグを肩に掛けてステップを
降りてきた。
パパは大ハリキリで、パラソルと
飲み物を冷やしたクーラーボックスを
後部から下ろして担ぎ上げる。
「あれ?」
家族を見回すと、パパが振り向く。
「ララはどうした?」
一家の次女、シェルティのララちゃんは、
後部座席の足元にうずくまり、
暗い目をして上目遣いに家族を見た。
「どーしたの?ララ!海だよ海っ!」
元気者の妹、モモちゃんが、
そう言いながら覗き込む。
「車に酔ったのかしら?」
ママはのんびり小首をかしげた。
「具合でも悪いのか?この辺に
動物病院あったかなー?」
パパは重い荷物を担いだまま、
大汗をかいてスマホを探る。
「・・・違うんじゃない?」
いつもクールなスミレ姉さんは、
ララの頭を軽く撫でると
その目を正面からジッと見た。
「ララ、あんたヤキモチ妬いてんのね?」
「ヤキモチ?」
モモちゃん、ママ、パパ3人は、
頭上に『?』マークで首を傾げた。
ガーラガーラガーラガーラ…
運命の時、家族の視線が集中する。
回転を止めた抽選機から、
コロリと落ちたボールの色は?
一瞬、その場の全てがとまった。
「お…」
バイト青年は、大きなベルの柄を
ガッシ!と掴み、大きく振った。
カランカランカランカラン🔔✨️
「大当たりぃーーーっ!!」
「キャーーーッ💕」
「やったーーー!!😆」
「あら、一等ね」
12回転した抽選機。
白いボールと残念ティッシュの
山を生産した家族は遂に、
最後の最後、13回目で金色を出したのだ。
ママとモモちゃんのスマホから、
仕事中のパパへ同時にLINEが届く。
「おっ?!何だ?何かあったか?!」
ビックリして画面を開くパパ。
「えっ?!おお!うおおおおっ!!」
突然デスクで立ち上がり、
スマホ片手に拳を上げる。
「課長!3日間の有給下さい!」
「はぁ?」
「娘が!娘が福引で旅行券当てました!」
パパのスマホ画面には、
景品の大きな祝儀袋を片手に
ピースするスミレさんの写真があった。
それから家族は会議を重ね、
小さいがビーチを所有していて
ペット同伴可の古い民宿へ、
海水浴旅行の予約を入れた。
ステキな夏の想い出が作れそう💕
そんな予感にウキウキの一家で、
ララちゃんだけは・・・
「私たちが楽しそうに浮かれて
旅行の準備をしてた間、ララは
何が起きてんだか解らなくて、
ちょっと仲間外れな気がしてたのよ
ねぇ、そうでしょ?ララ」
スミレさんの静かな声に、
ララちゃんは小さく
クゥン…
と鼻を鳴らした。
動物というものは、
周囲の空気に敏感である。
いつも陽気で呑気そうなララちゃんも、
家族の異変、病気やケンカなど、
不穏な空気を悟ると不安になる。
楽しい時にはウキウキもするが、
今回は何だか・・・
ララちゃんは知っていた。
パパが出張に行く時も、
スミレさんが修学旅行に行く時も、
モモちゃんが林間学校に行く時も、
みんなあんな風に、大きなカバンに
たくさんの荷物をギュウギュウ詰めた。
それを担いで出掛けると、
数日戻って来なくなる。
ララちゃんにとって、荷造りは
不吉の予感、寂しさの始まりだった。
いつもは家族の誰かだったが、
今回はどうやら家族全員らしい。
みんな楽しそうでウキウキして、
色んな話をして嬉しそうで・・・
自分だけが置いていかれるの?
ララちゃんは、そんな不安で
胸が一杯になっていたのだ。
一緒に車へ乗り込んでからも、
ララちゃんの不安は消えなかった。
家族は明らかに、普段とテンションが
違っていたし、パパなんか初めて見る
派手なシャツ(サメ柄のアロハ)姿で
麦わら帽子にピンクのサングラス。
モモちゃんに至っては、
わけの判らない大きな風船の輪っか
(浮輪)を肩からぶら下げて、
正気の沙汰とは思えなかった。
そしてママは・・・
ママは対紫外線防御に抜かりない。
表は銀色、裏は黒のUVシャット日傘に
大きなツバの帽子を被り、
黒いサングラス、黒いアームカバー、
ムームーの上からUVカットパーカー。
ララちゃんの鼻が良くなければ、
絶対ママじゃない不審者だと思う。
「さ、行こうよララ」
スミレさんが、ララちゃんの腰を
ポン、と軽く叩く。
その声と仕草に少し機嫌を直し、
ララちゃんはようやく車を降りた。
降りたら・・・
潮風が、海の香りと潮騒を運ぶ。
どれもララちゃんが初めて触れるものだ。
鼻をヒクヒクさせて、得体の知れない
苦いような生臭いような香りを嗅いだ。
「そ。これが潮の香りよ」
スミレさんが、そう言って笑った。
「あっ!やっと来たララ!」
「おーい、ララ!こっち来い!
ボール投げやるぞー!」
モモちゃんとパパが、ララちゃんを誘う。
「ワフッ」
つられて駆け出したララちゃんだが、
数歩で足が止まった。
砂・・・走りづらい💧
「ん?どうしたララ?」
「キューン…」
不安を癒そうと、鼻先をペロリ。
「キャン!(塩辛っ!)」
「折角のプライベートビーチだ。
好きに走り回っていいんだぞー!」
そう言ってパパは、ピンクのボールを
青空へ向けて投げた。
「ララ!取って来ーい!」
満面の笑顔でモモちゃんが叫んだ。
「ワフ!」
意を決して駆け出したララちゃんは、
砂に足を取られ、盛大にコケた。
「ごちそーさまでしたっ!」
サンドイッチをお腹いっぱい食べ、
水着のモモちゃんは、膨れたお腹を
ポン♪と叩いた。
ママは変装(?)を解かないまま、
ボトルからコーヒーを注いだ紙コップを
パパに手渡した。
「何だ?ララはまだ拗ねてんのか?」
食後のコーヒーを啜って、パパが問いかける。
「喜ぶと思ってこの民宿に決めたけど、
ララの意見を聞かなかったから
気に入らないのかしらね?」
ママも心配そうに言う。
「きっと慣れてないだけよ。
そのうち楽しくなって来るわ。
だって家族だもん」
スミレさんはそう言って微笑み、
ララちゃんの頭に手を乗せた。
海、海って・・・
ララちゃんは嫉妬していた。
家族みんなが海海言って、
海って何者?私より良い子なの?
みんな海が大好きみたい。
でも私は海なんか嫌いよっ!
海が誰かは知らないが、
家族がやたら好きそうに呼ぶ
「海」という存在が疎ましかった。
そしたら何か、ザブザブうるさくて
風が塩辛くて、足元が頼りなくて
変なニオイがする妙な場所へ来た。
何なのココ!これが海?!
これのドコがそんなに良いの?!
皆の前でコケて恥をかき、
お出掛け前にママが丁寧に
ブラッシングでサラサラに
してくれたララちゃんの毛並みも、
やたらしょっぱい砂まみれ。
ララちゃんのテンションは、
下がりっぱなしの低空飛行だ。
少し休んだモモちゃんは、
パパが引っ張るフロートに乗って
また海へ向かって行った。
ママは民宿へチェックインに向かい、
スミレさんはパラソルで、荷物番を
しながら好きな声優さんの
朗読『老人と海』を聴いていた。
ララちゃんは、スミレさんの隣に
トボトボと近寄って座り、
そのままシートに寝そべった。
気付いたスミレさんが、イヤホンを外す。
「ララ、少しお話をしよっか」
そう言うスミレさんを、
ララちゃんが見上げる。
「まだパパにもママにも言ってないけど、
私ね、獣医さんの勉強をしたいの」
スミレさんは、ララちゃんがそんなの
理解出来ないと知ってはいたが、
大事な家族に話す事で、自分の覚悟を
確かめたかったのだ。
「そう思ったのは、いつも傍に
ララがいてくれるからよ。
まぁ、どう進むのかはこれからだけど」
スミレさんは優しくララちゃんの
毛並みを撫でながら、くっついていた
キラキラの雲母をつまんだ。
「動物にもちゃんと心があるよね?
それを解ってあげられる、ステキな
お医者さんになれるといいな…」
その言葉に、ララちゃんは
パサパサと尻尾を振ると、
ここへ着いて初めて・・・笑った。
「近々パパとママ、それからモモにも
話をするわ。だから応援してね?」
「ワフッ!」
「ふふ…解るのね、ララ。
だからそれまで長生きしてて」
スミレさんの白い顔が、
少しだけオレンジ色がかって見える。
日が傾いて、徐々に赤味を増しながら
水平線に近付き始めた。
遊び疲れたモモちゃんと、
付き合わされてヘトヘトのパパが
シャチのフロートを引き摺って
パラソルへ戻って来た。
民宿から戻ったママも合流し、
家族揃って海に沈む夕日を見届ける。
「幸せだなー」
ボソッとパパが呟く。
日暮れが近付き、変装(?)を解除した
ママが「そうね」と返事する。
クーラーボックスからジュースを
掘り出して、ニコニコ顔のモモちゃんも
「うん!幸せだー!」
と、同意の声を上げた。
「そうね」
スミレさんは、モモちゃんの首に
手を置いて微笑んだ。
「こんな幸せな一瞬が、これからも
沢山あるといいね」
思ったより早いスピードで、
夕日は海へと吸い込まれ・・・
消えた瞬間、ピカっと緑に輝いた。
それから、一家は2泊して、
海と直通の露天風呂(ペット用付き)
を備えた民宿で、夏の休日を楽しんだ。
最初は戸惑ったララちゃんも、
帰る頃には呼びかけも無視して、
一心に砂浜掘りに熱中するほど
海大好き犬になっていたのだった。
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#みんなを笑顔にする選手権
#シロクマ文芸部
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