里の秋
【シロクマ文芸部:手を洗う】
※小牧幸助様主催のお題に寄せて
手を洗う時、水道水が冷たい。
つい数日前までは、ヌルい水しか
出てこなかったのに。
真夏にはほとんどお湯だった。
米を研ぐには温度が高く、
不味くなるので、冷蔵庫の飲料水を
足したり苦労した。
真冬は氷のように、冷たい水になる。
深夜に明日用の米を研ぐ時、
冷たさに泣けそうになる。
井戸水なら、夏は冷たく
冬には湯気が立つ。
年中、一定の温度を保つ井戸は
何と優秀な保温設備だろう。
実家には今でも井戸があり、
洗濯などに利用している。
飲料には不適の検査結果だが、
飲んでも特に問題なく思えた。
河川改修で、護岸がコンクリートに
変わってからは、水量が減った。
祖父や父が存命の頃は、
毎年一度、『井戸替え』と言って
ハシゴで底まで降りて行き、
水と底の砂やゴミを綺麗に浚えて
掃除をしていた。
最後に清酒を振り入れて、
柏手を打ち、家族皆で井戸の神に
感謝を捧げた。
そんな手入れも儀式も、
父が急逝した後は出来なくなった。
真夏の暑い日を選ぶのに、
井戸から出てきた父が
「寒い寒い」と震えながら
日光浴していたのを覚えている。
井戸はやがて、砂やゴミが溜まり
使えなくなるかも知れない。
井戸替えのやり方も、
教えて貰っておけば良かったと
私たちは後悔している。
時代の流れが、急になった気がする。
自分が歳とったせいだろうか?
懐かしい景色も行事も、
『効率』の名のもとに消えつつある。
それを寂しく思うのは、
時代に逆行するという事か?
時折通る農道沿いに、
いつ見ても『日本昔ばなし』のようだと
ほのぼの思う一軒家がある。
特に秋は、柿の実が色付いて
より昔話のような、懐かしさをそそる。
最近、その家が空き家になったようだ。
少し前までは、車が止まっていたり
洗濯物が干してあったりと、
生活感を感じられていた。
それが、ここのところ通りかかると、
人気がなく、窓も閉ざされ、
物干し竿に草が絡んでいる。
住人が何らかの事情で、
この家を去ったのだろうか?
古い家は維持も大変だ。
この家も、やがて朽ちるか
取り壊されるかも知れない。
無責任な他人の思いではあるが、
この景色をずっと毎年、
秋が来るたび見られたら良いな、と
そう思うのだった。

静かな静かな里の秋。
遠くモズの高鳴きが聞こえた。
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