ララちゃんはご機嫌
ピンポンを押しても返事が無い。
仕方ないのでお客さんは、
そっと玄関を開けてみた。
「ごめんくださーい!」
引き戸の隙間から顔だけ見せて、
呼んでみたけど返事は来ない。
「あのー、すみませーん!」
リビングの方からテレビの音がする。
誰かそこに居るみたいなのに。
思い切って、玄関に入ってしまう。
身を乗り出して、リビングを覗う。
「あのー・・・」
開いた障子の間から、
コタツに入って背中を丸め、
テレビを観ている茶髪の女性の
後ろ姿が見えた。
きっとこの家の主婦だろう。
美人姉妹と美人のお母さんって、
ご近所でも有名なお家だから。
テレビに集中しているからか、
来客に気付かない様子に焦れて、
派手なハンテンを着込んだ茶髪の
背中に、お腹から声を出して叫ぶ。
「すいませーん!
ちょっとお話いいですかーっ?!」
ハンテンの背中がピクンと揺れた。
そして、ゆっくりと振り返る。
「ぎ、ぎゃーーーっ!」
女の人だと思ったハンテン姿の茶髪。
それはなんと、このお家の愛犬、
シェルティのララちゃんだったのだ!
これは、田舎のお家で暮らす、
ご機嫌なワンちゃんの物語。
ララちゃんのお家には、
仲良しのパパとママ、それと
美人だと噂される姉妹が暮らしている。
姉のスミレさんが幼い頃に、
仔犬だったララちゃんが家族になり、
その後妹のモモちゃんが生まれたので
ララちゃんは自分が次女だと思っている。
そして、自分の役割は、
パパがお仕事に行ってる間、
女性ばかりのこのお家の平和を
守る事だと自覚している。
ある日の深夜、
この日はパパが遠方へ出張で、
家には女子しか居ない夜だった。
不審な気配に気付いたのは、
姉のスミレさんだった。
静かな田舎の夜の中、
いつもは聞こえない小さな音を
ピアノが得意なスミレさんの
鋭敏な耳が聞き取った。
「ねぇねぇ、モモ、起きて」
「えー?何?お姉ちゃん」
「ベランダで変な音がするの」
「えっ?」
姉妹はそれぞれ、テニスラケットと
フライパンを握りしめながら
ベランダのあるサッシ窓へ向かう。
息を殺して遮光カーテンに手を伸ばし、
一気にカーテンを引き開けた。
姉妹はサッシのガラス越しに、
若い男と見つめ合った。
会ったことも、見たことも無い
知らん男だ。
男も姉妹もビックリのあまり、
数秒無言で見つめ合っていた。
「!!? キャーーーーーッ!!」
ソプラノのハモリで悲鳴が上がる。
その声で初めて、男が動いた。
モタモタとベランダの柵を
乗り越えようと片足を上げたら、
デニムの尻ポケットから
ハラリと何かがこぼれ落ちた。
「あーっ!私の下着!!」
モモちゃんが気付き、
そして洗濯物を取り込み中に、
着信があって話し込み、そのまま
一部の洗濯物を取り込み忘れた事を
今思い出したのだ。
ベランダの男は、最近この辺りで
頻発している下着泥棒なのだ。
スミレさんは先日、駐在さんから
注意喚起のチラシを受け取っていた。
すかさずチラシの通報先へ電話。
警戒パトロール中の二組が、
すぐに現場で集合した。
犯人の男は、庭木をよじ登る
時には夢中で気付かなかったが、
逃げようと覗き込むと、2階の
ベランダは想像したより高さがあり、
ビビって飛び降りる事が出来ずに
その場で現行犯逮捕された。
ゴルフクラブを構えて起き出した
お隣のお母さんも、近所の人々も、
ホッと胸を撫でおろす。
パトカーを見送りながら、
ママがふと呟いた。
「ララちゃん、怖がってないかしら?」
ララちゃんは、こんなに騒がしい
事件の最中にもその後も、
おへそを天に向けて爆睡していた。
心配した家族が見に来ても、
腹をガシガシ撫でられても
『ぷくー、ふすー』
とか寝息かイビキが判らない
小さな音を発しながら爆睡している。
ママと姉妹は苦笑して、
顔を見合わせ、こう言った。
「ま、ララちゃんは番犬じゃなく
家族だもんね。ケガしなくてホントに
良かったわ」
そして、一夜が明けた早朝。
「ワホッ!!!💕」
「あーもう、ララ!
ゆうべは寝てないんだから
散歩はもうちょっと待ってってば!」
いつもの時間、お散歩リードを咥え、
今日もご機嫌でモモちゃんの
ベッドに跳び乗るララちゃんだった。
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#創作大賞2025
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※とても可愛いヘッダー画像は
ももろillustrator絵本 様の
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