嗜好と相性の狭間で揺らぐ
【シロクマ文芸部:コーヒーに】
※小牧幸助様主催のお題に寄せて
コーヒーに、悪気も罪も無い。
それは解っているのだ。
「あ、私コーヒー駄目なんで、お構いなく」
あらゆるシーンでそう口にしては、
もてなしのお気持ちを台無しにする。
世の中は、もはや季節が遷ろうのと
同じくらい自然に、来客にはコーヒー。
それが礼儀の一つになっている。
大抵のオトナはコーヒーが好きで、
どのお店に行っても、ご家庭に伺っても
そこにはコーヒーの香りがある。
「あ、すみません気が付かなくて
お紅茶にしましょうか?それともお茶?」
私に断られた方は、すまなそうな顔で
そう尋ねられる。
うう、心苦しい💧
私とて、飲めるものなら飲みたい。
美味しそうな香りが、私を誘惑する。
でもこれは、好き嫌いの問題ではなく
体質の問題なのだ。
私がそれを知ったのは、
大人になってからだった。
私には、幼い頃からの親友が居る。
休日には賑やかな場所で遊ぶよりも、
お互いの家を行き来しては、
手持ちの本や、漫画本の新刊などを
交換して黙々と読んでいた。
そんな時間が心地よく感じる、
真の友人とはそうなのかも知れない。
ご家族も皆、気さくで素敵な方ばかり。
特にお父様は、サービス精神豊かな方で
「おー、来てたのか?
取っておきのコーヒーを淹れてあげよう」
そう言っては自慢のコーヒーミルと、
こだわりの豆を手にニコニコ。
本当に優しいお父様だ☺️
美味しいコーヒーを頂いて、
持ち寄ったお菓子を食べながら
ただお喋りをして帰る。
楽しい一日。
それなのに、
いつも夜には体調を崩した。
吐き気で眠れなかったり、
胃痛に悩まされたり、
腹痛でのたうち回ったり・・・
それはきっと、食べ過ぎだろうと
自己完結していた。
大人になってからは症状が無いし、
あの頃は運動しないのによく食べた。
そのせいに違い無いと。
しかし、ひょんな事からその症状が
生まれながらにして私が持っている
難儀な体質のせいだと判明する。
『コーヒー豆の油を消化出来ない』
ええっ?!
そそ、そんな限定的な体質、とは??
つまりは、
牛乳を飲むと必ずお腹を壊すとか、
アルコールで悪酔いする下戸だとか、
それと同様、コーヒー豆の油が
ダメな体質だったと言う事実。
悲しいじゃないか!
好きなのに飲めない体質なんて!!
😭
もしかしたら、薬とか治療とか
何か方法があるかも知れないが、
もうすっかり
「私、コーヒー駄目です」
が自分に浸透してしまい、
もう四十年が過ぎ去った。
今更ムリをして飲もうとは
思わなくなってしまった。
残念ではあるが、特に困りはしない。
ただ、もてなすつもりでコーヒーを
淹れようとして下さる方へ、
無情なお断りをしてしまう事。
それだけがツラくて毎回、
申し訳なく思う私であった。
「ごめんなさい。
私はコーヒー豆の油がダメなんです」
いくら真実だとしても、
そんな断り方は頂けないな。
やはり偏食と思われようが、
普通の断り方で良いのでは?
今日も私の心の中で、
コーヒーの香りと湯気と、
変な体質を持った切ない気持ちが
ユラユラと揺蕩っているのである。
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