ハゲと、キャリアの話。ハゲている人は見ないでください
父は、おもむろに頭皮にかけるタイプの育毛剤を手に取った。そして、何やら呪文みたいなものを叫びながら、育毛剤を頭に振りかけはじめたーーー
「ハゲ」という言葉ほど、甘美で、多様な意味を含む言葉はないと考えている。
ひとたび使い方を間違えれば、「ひどい悪口」になるし、実際にハゲている人が使えば、「そこそこ面白い自虐」にもなる。
はたまた、AGAなど、様々な薄毛を治療するクリニックが各地に存在し、深刻な「悩み」であることや、それを解決する立派な「ビジネス」であることがうかがえる。
ハゲは、主に中年~高齢の男性が頭を悩ませる問題だ。男性はハゲないように頭を悩ませ、実際にハゲてきたら高額な治療を行う(人による)。
父もその一人だった。夜に歯も磨かない、お風呂にも入らない(朝にすべて行っていた)、服もよれよれのものを着るほど見た目に関心がない父が、ハゲだけは気になったようだ。常に鏡で頭をチェックしていた。
私は父に言った。
「お父さん、もう結婚もしていて女性にモテなければいけないわけでもないし、そもそも仕事も郵便配達でヘルメットをかぶっていて、ハゲてたって支障ないじゃん。なんでハゲを気にしているの?」
真剣に理解できなかったのだ。
もう年だし、別にハゲてても問題ないだろと本気で思っていた。
しかし父は目を見開き、言った。
「え…お父さん、たしかに年は取っているけど、心は若かった時のままなんやで…!ハゲるのは嫌なんや…!」
そう言って、父はネットで購入した、頭皮にかけるタイプの育毛剤を勢いよく手に取った。そしてこう叫んだ。
「毛根、がんばれェェェッッ!!」
「髪の毛、生えろおッッッ!!」
父は叫びながら、その育毛剤を頭にかけていた。すごい気迫だ。普段感情を出さない、温厚な父の、こんな姿を私は見たことがない。
父は、いつだって現実主義だった。
仕事がしんどくて、耳が聞こえなくなったときもあったようだが、それでも「仕方ない」と言って、愚痴一つ言わなかった。
私が社会人になり、会社の悪口をたらたらと言っていた時も、「仕方ないやんか~」となだめてくれた。
そんな現実主義な父が、エビデンスのあるのかないのかわからない育毛剤を、叫びながら一心不乱に頭皮にかけ続けている。
正直、見たくなかった。
それ以来、私は父のハゲに触れるのはやめた。なんだか、触れてはいけない気がした。
最近は、ルッキズムの問題とかもあるし。
父を見ながら、私は新卒のころを思い出していた。
社会人になり、新卒から最初の4年間は田舎の工場で働いていた。
私が当時働いていた企業は、若い女の子が大好きなおじさんたちであふれていた。
特に副工場長がその気が強かった。会社が赤字で残業規制が強かったのにも関わらず、若い女の子を自席に呼んでは、他愛ない世間話を長時間していた。まるで作業着の無料キャバ嬢だ。
そしてついに、私も呼ばれた。一体、何を話されるんだろう…ドキドキ。
―「佐倉さんは、毛量が多いね」
そうですねと答えた。ハゲとは真逆だ。
―「僕もね、年の割に毛は多いほうなんだよ」
確かに、60歳近い副工場長は、年の割に毛が残っているほうだ。私はうんうんとうなずいた。
―「男性はね、より良い遺伝子を残したがる生き物なんだ。僕が何を言いたいかわかるかい?」
うん?何が言いたいんだ?
―「あなたは毛量が多くて、男性はより良い遺伝子を残したがる。つまり、あなたにアプローチしてくる男性は、ハゲの遺伝子をもっている確率が高いということなんだ。自分のハゲの遺伝子を、あなたの毛量の多い遺伝子で打ち消そうとしているんだ。気を付けたほうがいいよ。」
私は絶句した。副工場長から、こんなアドバイスをもらうなんて。
ちょっぴりセクハラな気もするが、私は胸にしまい込むことにした。面白かったので、これは飲み会などで使う、私の十八番の話にしよう。
ちなみに、この話を本社へ異動後のお昼休みに、ハゲの管理職の前で違う人に話してたら、お昼休みが終わってもその管理職は帰ってこなかった。傷つけたかな。ごめんよ。
ハゲって、婚活でもない限り、女性はそんなに気にしないのではないかと個人的に思っている。別に自分の上長や取引先がはげていたって、「ああ、年だしな…」としか思わない。
男性同士のほうが、やたらハゲを気にしているように見える。「おれはあいつよりはげていない」なんて、マウンティングをとっているのだって見かける。
もしかして、女性は気にしていなくても、男性同士では「ハゲているかどうか」で、いろいろ判断されているのかもしれない。
それくらい男性にとって、「ハゲているかどうか」は重要な指標なのだ。同じプレゼンをしていても、ハゲているかどうかで、どちらに受注するか決まるのかもしれない。私が「貧乳」で配属先が決まったように。
そうだとすると、このnoteのテーマである「キャリア」にも、「ハゲ」はかなり関係してくるのではないだろうか。そして、関係するのならば、現実的な父があんなに育毛剤を頭にふりかけていたのも、納得できる……のかもしれない。
でも個人的には、会社で私の席の前に座っていた、「あっ!!佐倉さん!!ぼくのハゲ頭が反射してまぶしいよね!!ごめんね!!」なんて言って笑いを取ってきたおじさんのほうが、好きなんだけどなあ。
(ああ、意味わからないnoteを書いてしまった…この話が面白かったらスキ・コメントをおねがいします!)
