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【突発企画参加】病室にて

なみさんの企画に参加です!
「ラストキス」のお題を30分で書き、そのまま投稿するというハッピー企画!

ちなみにBLと指定なかったのでBLじゃないのですが大丈夫なのか。
ダメだったら下げますのでなみさん教えて下さい🙇‍♂️



 触れた唇はしわしわでかさついていた。
 私の記憶では、人の唇は柔らかくて、触れると幸福な気持ちになれるものだった。
 病院のベッドに横たわる彼を眺める。
 逞しかった腕は骨と皮だけになり、皮膚には大きなシミがいくつもできていた。
 ジョギング好きだった彼は、年中日焼け止めを塗らずに日光を浴びていたから、そのせいだろう。

 
 病院から「呼吸が浅くなってきた。恐らく最後になるでしょう」と電話をもらい、急いでタクシーを呼んだ。
 まだ通勤ラッシュの時間帯だった。渋滞にはまり、何度も赤信号で止まった。

 早く動いて。

 私の身体が若く元気だったら、ドラマのようにタクシーから降り、走って病院へ向かったかもしれない。

 だが、現実はそんなにドラマチックなことはできない、起こらない。

 面会時間前だったけれど、名前を伝えるとすぐ病院内に入れた。受付スタッフは「朝早くからすみません」と神妙な面持ちだった。

 私は急いで病室へ向かう。彼は薄っすら目を開けていたが、意識はないようだった。

 ひとまず、まだ生きていた。
 でも、ほっとしたのも束の間。突然呼吸がとまったのだ。私はすぐナースコールをした。

 誰か、早く来て。
 
 スー……ハー……

 彼の胸が、大きく動いた。

「どうされましたか」
「あの、さっき呼吸が止まったんです。でもまた動いて」
「亡くなる前の呼吸です。止まったり、また大きく息をしたりして、徐々に止まっている時間が長くなっていくんです……斎藤さん、頑張ってますね」

 若い看護師は彼に優しく布団を掛け直したあと、何かあれば呼んで下さい、と病室を出て行った。

 もう、最後なのね。

 私は彼の唇に自分の唇を押し当てた。
 若いころのようなときめきはない。ただ、しわしわの感触が残っただけ。

 初めてしたキスはいつだったか。ああ、確か私にプロポーズをしてくれた時だ。

 初めての感触に、私は舞い上がって、何日もその余韻に浸っていた。
 
 今度は、このしわしわの感触を覚えていよう。

 あなたのいない日常はひどく退屈で悲しいかもしれない。そんなとき、この感触を思い出そう。年寄りのキスなんて、なんて色気がないんだろう、と、そう笑えるように。

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