陽だまりのスープ
朝、一番にすること。
それは、鉄瓶でゆっくりとお湯を沸かすことだ。
シュンシュン。
小さな白い湯気が立ち上るのを見つめていると、昨夜までのささくれだった心が、少しずつ平らに伸ばされていくのがわかる。
私は、古い平屋の台所に立っていた。
今日のスープは、近所の農家さんから分けてもらった新玉ねぎが主役。
飴色で赤ちゃんの肌のようにすべすべした玉ねぎの皮を剥くと、鼻にツンとくる香りがふわりと広がった。
「いただきます」
誰に言うでもなく呟いて、包丁を入れる。
サクッ、という心地よい音。
それは、この子が大地で蓄えてきた命を、私の一部として迎え入れるための、静かな儀式のようなものだ。
コンソメの出汁に、薄切りにした玉ねぎを滑り込ませる。
火が通るのを待つ間、私は窓の外に広がる小さな庭を眺めた。
たんぽぽの蕾が、誇らしげに膨らんでいる。
新緑の季節が到来だ。
味付けは、ほんの少しの胡椒と、パラリと振った粉チーズだけ。
お気に入りの、ぽってりとした厚みのある粉引の器にスープをよそう。
湯気と一緒に、甘い香りが鼻先をくすぐった。
一口すすると、温かな液体が喉を通って、内側からじわじわと身体を温めていく。
「ああ、生きてる」
思わず声が漏れた。
大切な人を亡くしてから、私の時間は止まったままだった。
けれど、こうして温かいものを食べ、その美味しさを噛み締めるたびに、止まっていた時計の針が、一秒、また一秒と、頼りなくも着実に進んでいく。
食べて、眠って、また朝を迎える。
ただそれだけのことが、どれほど尊く、贅沢なことか。
スープを飲み干す頃、カーテンの隙間から差し込む朝日が、テーブルの上に金色の模様を描き出した。
今日という日が、誰にとっても、柔らかな光に包まれる一日でありますように。
私はそっと手を合わせ、新しい季節の訪れを告げる風を感じるために、ゆっくりと窓を開けた。
完
