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【画廊探訪 NO.118】観察、そして信頼――嘘言の今日に向けて  ―――井上治展『光と影の中のフォルム』に寄せて―――

観察、そして信頼――嘘言の今日に向けて
―――井上治展『光と影の中のフォルム』(Gallery Face to Face)に寄せて―――
襾漫敏彦

観察したものを、何かの形に移し変えて、伝えることは、人類の昔からの課題である。そもそも、何を見たのか、何を見ようとして何が見えたのかということから考えれば、これは極めて認識論的な課題である。

井上治『光と影のフォルム』は、ゼラチンシルバープリント=銀塩写真の作品の展示である。銀塩写真は、光によって発色する銀の化合物を施した印画紙に写真を焼き付けたものである。デジタル写真があらわれる以前は、ありふれたものであり、写真といえばこれであった。
井上治氏は、物理学の世界で業績をあげた研究者であった。退職後の一九八〇年代から銀塩写真を使った作品を発表し続けた。女性ヌードや静物を写しだした彼の写真は、限りなく物体としてのそのものに焦点をあてている。そのため、光と影としてあらわれるシャープな黒と白のコントラストによって自然の中で成り立った者としての仕組みの強さを伝えている。
昔、写真というものは、撮影したものが手にできるまで数日かかったものである。様々に人の手がかかって完成する。そして余計な意図がはいらないように努力しているからこそ写真は信頼された。
ものの本質は、ぼんやりとして見えるものではない。見ようとするから見える。観測は、視点を定めているからこそ可能である。その視点が定まるまで、様々な試行錯誤が繰り返される。そこから、欲望や意図、雑音や圧力を退けて、ようやく姿があらわれる。
今日のデジタル写真技術は、多くの補正を可能にしてくれる。より美しくより鮮明に、望むものを与えてくれる。けれども、それは本物なのか。ものの本質へ近づこうとして潔癖な観測を続けた経験のある井上氏の銀塩写真は、あらためて信頼というものを教えてくれる。


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井上さんのサイトです。

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