【でん子の冒険 3812話SP エジプト旅行記 No. 13 戦慄するスフィンクス】2026年5月28日 木曜
スフィンクスは、日本の狛犬のルーツとも言われる獅子の姿をした「霊獣」ですが、その「霊獣」に深い爪痕を残したのは、彼の爪先でつぶせるようなほかならぬ「人間」であることを、現地の添乗員の方が怒りとともに語ってくださいました。
かつてその巨大な頭部を支えていた顎髭(あごひげ)は、今や見る影もありません。支えを失った頭部は常に落下の危険に晒されています。この貴重な髭をだれが壊して持ち去ったのかははっきりしており、今も某国の有名博物館にその証拠として展示されています。
略奪に近い形で持ち帰りながら「人類共通の遺産を保護している」と大義名分を掲げる姿勢は、欺瞞(ぎまん)と言わざるを得ません。論語の言葉に「過ちて改めざる、これを過ちという」とありますが、過去の非を認めず、返却を拒み続ける傲慢さには、スフィンクスも静かに戦慄していることでしょう。
この話を聞き、ふと秋田県の大湯ストーンサークルを訪れた際のことを思い出しました。そこには、サイコロのドットのように数字が表裏に刻印された、親指サイズの「板状土偶(写真)」がありました。縄文人がすでに「数」の概念を認識し、計算さえ行っていた可能性を示す、極めて貴重な証拠です。まだ歯が生えていない赤ん坊の「どーもくん」のような愛くるしい顔がついたそのレプリカのキーホルダーは、私のお気に入りで今も鞄につけています。
例の博物館から展示のために貸し出し依頼があった際、「あそこは良いものを送ると二度と返ってこなくなるから、レプリカを送ったよ」と現地の職員の方が苦笑いしながら話してくれました。その話を聞いたときは「現代なら契約があれば大丈夫では」と思いましたが、今ならその真意が分かります。「過ち」を認めず誠実さを欠けば、現地の方々の怒りを買うだけでなく、世界の同業者からも信用を失うのです。
翻(ひるがえ)って、大エジプト博物館への協力を惜しまない日本は、現地で確かな信頼を得ているように感じました。歴史を踏まえ、アジアの近隣諸国との関係にはより繊細な配慮が必要ですが、少なくとも数千年の歴史を持つエジプトやトルコ、そしてイランなどの中東諸国に対しては、欧米諸国が残した「深い爪痕」に比べ、日本が長年築いてきた技術協力と文化交流の誠実さによる信頼が、平和に貢献できる大きな力になると信じています。
歴史を重んじる古き国々は、現代の振る舞いを通じて、相手が信頼に値するかを冷徹に見定めているのかもしれません。
