日本の1on1に必要なのは、質問力より「言える空気」
「あなたは、どうしたいですか?」
コーチングを学ぶんでいくと、よく話に出てくる質問です。
私も1on1の支援をする中で、使うことがあります。
本人の中にある考えを、本人の言葉で話してもらう。
とても大切な質問だと思っています。
でも、日本の職場で上司が部下にこの質問をした時、
なかなか答えが返ってこないことがあります。
「特にありません」
「今のままで大丈夫です」
上司からすると、もっと自分の意見を持ってほしいと思うかもしれません。
でも、本当に意見がないんでしょうか。
もしかすると、
その場で一番安全な答えを選んでいるだけかもしれないんですよね。
今日はそんな日本の文化を考えながら、1on1を考えるネタです。

欧米を中心に育ったコーチングには、前提がある
今回、改めて調べてみると、今のマネジメント分野のコーチングは、1950年代のアメリカで広がり、日本では1997年から体系的に学ぶ場が始まったと紹介されています。
コーチングの歴史をまとめたページを見ると、
もともと日本の職場で生まれたやり方ではないことが分かります。
※参考:コーチ・エィ アカデミア「コーチングの歴史」。
欧米で発達したコーチングは、
本人の意思を言葉にすることを大切にします。
自分は何を望んでいるのか。
どんな目標を持っているのか。
次にどんな行動をするのか。
そして、その行動を結果につなげていく。
この考え方自体はすごく良いと思っていますし、やるべきです。
国際コーチング連盟の基準にも、安心して話せる関係をつくることや、言葉になっていないことまで聴くことが入っています。
つまり、
本来のコーチングも質問や結果だけを見ているわけではありません。
ただ、職場の1on1に持ち込む時には、大きな違いがあります。
会社の外にいるプロのコーチとの時間では、
仕事の評価から離れて話せます。
一方、1on1で部下の話を聴く上司は、
多くの場合、仕事を任せ、評価にも関わる人です。
同じ「あなたはどうしたい?」でも、
聞く人が変われば、質問の意味も変わるんですよね。
日本の職場には、言わない方が安全な時がある
日本の職場では、
周りの空気を読むことが求められる場面があります。
上司と違う意見を言ったら、面倒な人だと思われないか。
今の仕事に不満があると言ったら、評価に響かないか。
やりたいことを話したら、わがままだと思われないか。
こう考えると、
本音を言うより「大丈夫です」と答えた方が安全です。
いわゆる同調圧力です。
もちろん、日本人が全員そうだという話ではありません。
欧米の職場にも周囲へ合わせる圧力はあります。
ただ、日本とアメリカの比較研究では、日本では人間関係を簡単に変えにくいことが、悪い評判への不安や、周囲から拒まれることを避ける傾向と関係していると報告されています。
※参考:日下部春野・前田友吾・結城雅樹(2024)「拒否回避傾向の文化差はどこからくるのか:関係流動性と評判期待の役割」『社会心理学研究』
今日、上司に本音を言って関係が悪くなっても、
明日からも同じ職場で働かないといけない。
そう考えると、空気を読むことは、
自分を守るための判断だったりします。
「大丈夫です」の中に、
言えなかった何かが残っていることもあると思うんです。
質問力を上げるほど、部下が苦しくなることもある
部下が話してくれない時、上司は質問の仕方を勉強します。
「本当はどうしたいの?」
「次回までに何をしますか?」
「あなた自身は、どう考えていますか?」
どれも、コーチングではよく使われる質問です。
でも、安心して話せる状態ができていなければ、
良い質問ほど、正しい答えを求められているように感じることがあります。
質問される。
答えを探す。
上司の表情を見る。
怒られなさそうな答えを返す。
これでは、質問が増えるほど苦しくなります。
部下が話してくれない時に考えたいのは、
「次に何を聞くか」だけではありません。
「この人は、この場で何を言えないんだろう」
こちらを考えることの方が、先なんじゃないかなと個人的には思います。

日本の職場に合う1on1は、質問の前から始まる
難しい技術が必要という話ではありません。
例えば1on1の最初に、こんなふうに伝えてみる。
「今日は答えを出さなくても大丈夫です。
最近、少し引っかかったことがあれば教えてください」
これだけでも、
質問の受け取られ方は変わると思います。
将来の目標よりも、
まず最近あった具体的な出来事から聴く。
部下が黙った時は、
急いで次の質問をしない。
話してくれた時は、すぐに評価やアドバイスをせず、
「そう思っていたんですね」と一度受け取る。
上司と部下の2人だけでは話しにくい時は、
第三者やAIに間へ入ってもらう方法もあります。
誰かが間にいることで、
「自分から言い出したのではなく、聞かれたから話した」
というきっかけができます。
部下の勇気だけに頼らず、
本音を言いやすい形を先につくる。
これが、
日本の職場では特に大事なんじゃないかなと思っています。
欧米式を、日本の職場の言葉に直す
欧米式のコーチングを否定したいわけではありません。
本人の中に答えがあること。
自分の目標を、自分の言葉で話すこと。
気づいたことを、次の行動や結果につなげること。
どれも大切です。
ただ、その方法を日本の職場に持ってくるなら、
質問だけを持ってくるのでは足りないと思っています。
周りの空気を読むこと。
上司と部下の立場の差。
本音を言った後も続いていく人間関係。
私は、そこまで含めてやり方を直すところから始めたいです。
難しい言葉や型をそのまま渡さない、
誰でもできる「ひらがなくらい簡単なコーチング」のようなものが、
日本の職場には合うと思っています。
聴く。
待つ。
まず受け取る。
質問力より先に、
「ここなら言っても大丈夫」と思える空気をつくる。
次の1on1では、質問を一つ増やす前に、
こんな一言から始めてみてください。
「今日は答えを出さなくていいので、
最近ちょっと引っかかったことがあれば教えてください」
いつもの「大丈夫です」の次に、もう一言が出てくるかもしれませんね。
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