⚪️企画作品|本日は人柄もよく
私には認知能力の一部に欠けたところがあり、と言っても生活に支障を来たすほどではない。ある種の困難を感じる程度である。
具体的に言うと、早口の人が何を言っているのか全く分からないのだ。
会話の冒頭もしくは前半の印象的な一語のみが頭の中に入ってきて、それ以外は単なる音声(ノイズ)となってしまう。何か意味のないデタラメな言葉をズラズラと並べられているように感じるのだ。
そういうとき私は相手が一息ついたところで決まってこう言うことにしている。すみません、上手く聞き取れなかったのでもう一度最初からゆっくりお願いできますか?
ただしこれは気分が穏やかな時である。何故なら、早口の銃弾を浴びている間中、私は言いようのない苦痛を感じているからだ。本当は席を立つなり電話を切るなりして逃げ出したいのである。
だから穏やかでない時、私はもっと剣呑である。
ただ、それがどのくらい剣呑かということについては、ここでは言わずにおこう。幸にして今日はすこぶる穏やかであるから。穏やかならざる日のことをわざわざ持ち出すこともあるまい。
などと言っていたら来たぞ。早口の人が。
「このたび適温様にはベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラどういたしますか?」
「はあ。じゃあそれで」
マズイ。何かを契約したっぽい。まあいいや。後で解約しよう──と、常にこんな調子である。
不思議なのは、こんな私でも早口になることがあるという点だ。そう。私だって攻める時は攻める。いわゆるこっちのターンというやつだ。
「それはそもそもベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラで何の話でしたっけ?」
見失ってる!
早口になんてなったって何も良いことないじゃないか。なのにどうしてみんな早口になるのか。みんなもっと落ち着いてゆっくり話そうよ。
というのを、ちょっとゆっくり話してみました。
(おわり)
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