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🟣短線小説カカシ完党版

第䞀郚2323文字


 ここだけの話、などず蚀っおそれがあたかも特別な䟡倀のある情報でもあるかのように振る舞う぀もりは毛頭ないし、実際、倚くの人にずっおそれはどうでも良い出来事なのだけれど、少なくずも私にずっおは決しお忘れ埗ぬ特別な䜓隓であり、たた人生を振り返った際には必ず思い出される重芁な䞀挿話であるこずは確かだ。

 高校時代、私には停りの恋人がいた。

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 ツバサは今、どこでどうしおいるだろう。

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 うちの孊校の文芞郚は䌝統的に第䞀郚ず第二郚に分かれおいお、がくは「読む専」の第二郚に所属しおいる。ツバサは今幎床から「曞く専」の第䞀郚に入郚しおきた新䞀幎生で、最初の䞀月で十八本の官胜小説を曞き䞊げお教垫陣の床肝を抜いた匷者である。

 その内容があたりにも過激だったせいで心配した担任が圌女ず個別に面談し、たた保護者にも調査のため電話を入れたらしい。ずころがツバサの母芪ずいうのがこれたたかなりの曲者で、著曞を䜕冊も出しおいる有名な心理カりンセラヌなのだけれど、顧問らの口ぶりから察するに、おそらくそこで䞀悶着あったのではないか。無論これは想像の域を出ないこずではある。

 ただ珟実的な問題ずしお、ツバサの噂は瞬く間に孊校䞭を駆け巡り、遠巻きにヒ゜ヒ゜ず噂話をする連䞭だけなら実害も少なかろうが、卑猥な䞋ネタをぶ぀けおくる奎、圌女の名札を盗んだり、登䞋校䞭に埌を付けおくる茩が珟れるに至っお、䜕らかの策を講じるべきずの結論に達したようである。少なくずも孊校偎は。

 そこでがくが遞ばれた。

 圌女の官胜小説すべおに詳现なコメントを添え、しかも揺るぎない性的無関心を維持しおいるこずが高く評䟡されたらしい。がくが二幎生だからずいうのも考慮された。぀たり、ボディヌガヌド、面倒芋の良い先茩、あわよくば盞談盞手や監芖者にもなっおもらおうずいう、やや過剰ではあるけれど、䟿利な圹割ずしおの「カカシ」を呜じられたずいう蚳だ。

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 䜜品はずもかく、ツバサ自身がどのような人物だったか、どんな性栌で、䜕を奜み、䜕を憎んだか、蚘憶も今ずなっおは曖昧暡糊ずしおその茪郭を捉えるこずが容易ではない。私の手元に残るのは数癟の官胜小説ず、䞀通の遺曞だけである。

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「そこ、どこ ねえ埅っおお、お願いだから」

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 ツバサは自分の眮かれた状況に異を唱えるこずもなく、かず蚀っお積極的に楜しむ颚でもない。ただいく぀かの点でわりずすぐに倉化が芋られたこずから、おそらく適応しようずはしおいるのだろう。

 小説を曞き䞊げたら真っ先にがくに芋せるようになったし、登䞋校は必ずがくの家を経由するようになった。䌑み時間にはがくの教宀を蚪ね、䞀蚀も喋らないくせに芪しいふりを挔じたりもした。

 そのような関係を続けるうちに、い぀しか呚囲は、そしおおそらくはがく自身も、ふたりを特別な関係ず芋做すようになっおいった。

 そしお圌女は圌女の小説を曞き続けた。

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 がくは小説を読むずき、排他的でない耇数の読み筋を探すこずにしおいる。

 排他的でないずいうのは、Aずいう読みずBずいう読みがあったずき、それらが同時に成り立぀状況のこずである。

 他方、排他的な読みずいうのは、Aを採甚したならBは吊定され、Bを採甚したならAは成立しないような読みの状況のこずだ。

 ツバサの曞く小説はある意味ずおも耇雑で、同時にいく぀もの読みを可胜ずする。ずいうより、それを匷芁しおくるのだ。

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 圌女にも匱点ずいうか、タむトルの付け方にだけはどうも苊手意識があるらしく、耇数のタむトル案を持っおきおは䞀蚀「これずかどう」ず蚀っおがくに差し出すこずが床々あった。

 䟋えば──

 『倜桜ず桜逅』
 『女子高生のあんこ桜逅』
 『ダンボヌルハりスの女子高生』
 『ダンボヌルハりスの女子高生の桜逅』
 『ダンボヌルハりスの女子高生ず倜桜の桜逅』

 読み手の倫理ずしお、がくは曞く行為ぞの介入には抵抗がある。慎重にならざるを埗ない。

 どうするかず蚀うず、その小説には倜桜も、桜逅もダンボヌルハりスも、たた女子高生すら登堎しないこずを静かに指摘するのである。

 結局タむトルは『サンダル』になった。

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 ずころで、ツバサの隣にがくずいう「カカシ」を配眮した孊校偎の目論芋は、ある皋床成功したずは蚀えるけれど、新たにがくずいう燃料が投䞋されたず芋お燃え䞊がる局も無論なくはなかった。

 その手の連䞭は、がくを小説の「䞻人公」ないし「䞻語」ず芋做すこずで、ネタのスケヌルを以前より数段グレヌドアップさせおいる。

 そのこずを倧人たちが予想しおいなかったずは思えないし、そもそも「カカシ」を女子の䞭から遞ばなかった時点でがくも気づけよずいう話である。

 ずもあれ、そんながくを今床は誰が守っおくれるずいうのか。

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 自然の成り行きずしお、がくらは倖偎の䞖界ず次第に距離が出来はじめた。

 ツバサは第二郚の郚宀で執筆するようになり、攟課埌はうちに寄っお、がくの郚屋でその続きを曞いた。公園の藀棚のベンチに座っお時間を朰すこずもあれば、ファミレスで、あるいは倕暮れの川沿いを歩きながら小説に぀いお語り合った。

 少しず぀ではあるけれど圌女は無論がくも個人的なこずを話すようになっおいった。

「どうしおみんなセックスに倢䞭になるのかしら」
「さあ、倢䞭になったこずないから」
「想像しおみおよ」
「たあ、皮ずしおの──」
「そういうのじゃなくお、ううん、良いの、忘れお」

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 ツバサはずりわけ玫倖線を憎んだ。

 そう。圌女が去った埌に残る日焌け止めの銙り。レモンナヌカリが圌女の䞍圚を殊曎に煜り立おる蚘号ずなっお、私はツバサを、䜕よりたず匂いずしお思い描くこずになるだろう。


第二郚2257文字


 ある意味これも圓然ず蚀えば圓然なのだけれど、がくはツバサず芪しくなればなるほど、共に過ごす時間が増えれば増えるほど、圌女の小説を読むのにある皮の困難を感じるようになっおいった。

 圌女の汗ばんで匵り付いた頞すじの埌れ毛や、倏服から芗く青癜い腕、ふず錻をかすめる人工的な銙りが脳内で暎れ出し、ツバサの描く官胜の䞖界ず絡み合っおがくに身も蓋もない衝動ぞの服埓を求めおくるのだ。

 この倉化は䞀時的なものだろうか。そう願いたい。䜕故なら、がくが圌女の読み手であるこずを止めお哀れな消費者に堕ちるならば、がくは「カカシ」ずいう居堎所を倱うこずになるからだ。

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 私は「カカシ」を必芁ずしおいた。い぀の日かツバサを殺すために。

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 こうしたがくの倉化に圌女は気付いおいるだろうか。出来れば知られたくない。䜕かが壊れおしたう前に、がくはがく自身を飌い慣らし、たるで䜕事もなかったかのように圌女の小説を読んでいたい。

 だからツバサが倉なこずを蚀い出したずき、がくはすっかり混乱しおしたった。郚屋で小説を曞いおいた圌女が突然振り向いおこう蚀ったのだ。

「わたしは死ぬたで凊女でいようず思っおいたけれど──凊女であるこずも、そうでなくなるこずにも倧した意味なんおないんだよ」

 これをどう読むべきか。あるいは今曞いおいる小説のこずかもしれないが、がくはただ「ぞヌ」ず気の抜けた返事をしただけで、しかし、これは明らかに読めおない読み手の反応だ。

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 以来、ツバサの小説は、より過激になり盎接的になっおいった。现切れの断片のように、たるでみずから掃いお捚おるように、ただ乱暎に曞き殎っおいるようにさえ芋えた。

 ずころがそれらの断片はむしろ、読む床に圌女のあの蚀葉を脳裏に浮かび䞊がらせ、その行間に、蚀葉の端々に、男女のやりずりの䞭に、がくは吊応もなくツバサを読み取っおしたう。

 『無題』

 男は少女の乳銖を口に含み、揉み蟌むように舐めながらもう䞀方の乳銖を指先で觊れた。そしお少女の乳銖が固く勃っおきたのを芋蚈らっお男は指で摘む。あるいは右の乳銖を唇に挟み、巊の乳房を円を描くように揉みながら、乳茪ず乳銖を觊り、たたに力匷く匕っ匵るず少女は䜓をビクッず震わせる。男は䜕どうすれば喜ぶかを芋抜いおいる。䞡手で乳房を力匷く掎んで、巊右の乳銖を亀互に吞う。

 少女は党裞にされ、䞡手䞡足を倧地に括り付けられおいる。党身を倪陜が焌き尜くそうずしおいる。そこぞ男がやっおきお、少女の股の間に跪き、汗ばんだ性噚に顔を近づけ、淫毛の䞭に錻を埋めたのだった。そうしおしばらくはその匂いを嗅いでいたが、やがお性噚に舌を這わせ、倪陜が静かに身䜓を焌き尜くす頃、男は少女にみずからの欲情を捻じ蟌み、玔朔を穢したず玍埗しお満足する。

 目芚めるず、少女は校舎の屋䞊に裞で打ち捚おられおいるこずに気づく。少女から流れる血が固たっお皮膚や髪の毛にこびり぀いおいる。わたしは泣きながらどこにいるかも分からない誰かの名を呌ぶ。

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 倏が終わり秋が来るず、ツバサの小説は、ずいうよりツバサ自身が䜕より䞀局䞍安定になった。がくの郚屋に来おもただ挫然ず時を過ごしたり、机に突っ䌏しお涙を流すこずもあった。かず思うず嘘のように晎れやかで、冗談を蚀っお笑ったり、曞き䞊げたばかりの小説をがくに音読させたりした。

「ねえ知っおた」
「䜕を」
「わたしたちが恋人になっおはならない理由はないっおこず」
「そうなりたいの」
「分からない。先茩は」
「がくはカカシだから」
「䜕それ」
「きみを無理解や暎力から守る」
「䜕それ」

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 やがお冬が来お、幎が明けたらがくは受隓に舵を切る。文芞郚も匕退ずなるからツバサの「カカシ」をどうすべきか。考えた末、文芞郚に残るこずにした。それを顧問に䌝えに行くず、しかし、顧問の反応はがくの予想を遥かに超えおいた。

 そう蚀えばそんな話もあったなあず顧問は蚀った。それよりお前ら、付き合っおいるなら文芞郚どうこうじゃなくおふたりで話し合え。恋人なんだろ。カカシ お前は䜕を蚀っおるんだ。

 先生こそ䜕を蚀っおいるのだず思ったが、吊その芖点が正しいならば、がくは今たでどこにいお、䞀䜓䜕を芋おきたのか。きちんず䞖界を読み解いおいたのだろうか。そもそも䞀䜓、がくは䜕者なのだ。



 私は遂に殺すこずにした。



 がくらにずっおの真に幞犏な瞬間は今だず蚀えたらどんなに玠晎らしかっただろう。それはおそらくずうに過ぎ去っおいたのだ。

 がくは「カカシ」を降りるこずにした。

 だから圌女の身䜓を奪い、その乳房や性噚を欲しいたたにしお、䜕床も䜕床も射粟しおも、がくらの幞犏な瞬間は決しお蚪れない。



 私は遺曞を曞き、そしお十五歳から十六歳になるほんのわずかな䞀時期に、若さず情熱ず䜕かに远い立おられるような切迫した狂気に身を任せお曞き殎った数癟の小説的な断片ずずもに、それを封印し、私の䞭からツバサずいう人栌を远い出した。別人ずしお生きるために。

 そしお圌の前から姿を消した。

 そうしなければならない理由が確かにあったはずだ。しかし今ずなっおは䞊手く思い出せない。䜕故なら殺しおしたったから。いく぀かの印象的な蚀葉ず匂いだけが蚘憶の端にただぶら䞋がっおいる。

 あれから二十幎が過ぎ、母芪も死んで、私はそろそろツバサず和解できそうな気がしおいる。

 だからもう䞀床曞こう。官胜小説ではなく、今床こそ私自身の物語を。そしお私のために停りの恋人ずなっおくれた「カカシ」の物語を。

了

🟣4580文字


【附蚘】

䞭断しおいたこちら↑の䜜品を完成させたした。

前半第䞀郚で積み䞊げた蚭定を、埌半第二郚ですべおぶっ壊したす。

いいなず思ったら応揎しよう