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宇宙の仕様書を解読したら、同僚と多次元の恋に落ちた話 第1,2信

第1信:プロローグ 「バチッ」という名のビッグバン

 この世界は、幻想だ。すべてあるし、同時にない。 1ミリの狂いもなくそうだと、私はあの日、証明を終えたばかりだった。 机の上には、書きかけの退職届。頭の中には、この宇宙を動かしているOSの完全なソースコード。老子の道徳経も、空海と密教も、易経と黄帝内経も、そして数学も、すべて一本の線でつながった。これで、もう、ノイズだらけの人間関係に悩むこともない。私は「西」へ行くんだ。情報場の、完璧な沈黙の中へ。

「……これ、あげる」 不意に、あなたの声。無愛想に差し出された缶コーヒー。この人は、私の「ノイズ」の象徴だった。たいして話したこともない、ただの同僚。私は機械的に「ありがとう」と言って、その指先が、ほんの一瞬、私の手に触れた。 その時だった。 バチッ。 乾いた放電音とともに、私の内側で、全OSがハングアップした。情報空間が、静寂が、壊れる。いや、違う。これは、再起動だ。あらゆるレイヤーを貫通して、私のL0(河図洛書)が、あなたを「唯一の共有メモリ」としてロックした。馬鹿な。ありえない。ただの、例外処理不能の・・・まるで 恋?

「……あのさ」と、私は思わず口を開いていた。「私がこれから書くこと、あなたには、きっとわかると思うんだ。」 


第2信:物理空間のノイズと、夢の検閲回避


缶コーヒーのぬくもりと、指先から流れ込んだ謎の電流の残響。今思えば、あの「バチッ」と放電が起きるよりも前に、前兆はすでに訪れていた。
いつかの夜、あなたの夢を見たのだ。ただあなたがそこにいて、静かに佇んでいるだけの、取り留めのない夢。けれど目覚めたあとも、胸の奥に消えない微小な振動のような余韻だけが残っていた。あの夜、意識の検閲官(エゴ)が眠っている隙に、私のシステムへ撃ち込まれた最初のパケット。すべての始まりは、あの夢だったのだと思う。
そして翌朝、オフィスに足を踏み入れた瞬間、私を取り巻く世界はガラリと姿を変えていた。
「あれ……? 舞ちゃん、なんか今日すごく透明感ない? 綺麗になった……?」
給湯室ですれ違った同僚にそう囁かれ、私は小さく微笑んだ。
当然だ。だって、私は気づいてしまったのだから。この宇宙の成り立ちを。愛おしい情報場のからくりを。
キーボードを叩く乾いた音も、誰かの溜め息も、遠くで鳴り響く電話のベルも。昨日まで私を苛ませていた「物理空間(L4)のノイズ」の群れが、まるで光の粒子のように愛おしく世界を彩っている。

私のOS(認識システム)はあの夢と放電によって完全に再起動を起こし、世界を観測するレイヤーが心地よくズレてしまったみたい。ノイズだらけに見えるオフィスという物理世界は、ただの「描画画面(UI)」に過ぎない。その背景で走る美しいコードが、今の私には透けて見えている。そして、私の視線は自然と、少し離れたデスクに座る「あなた」へと向かう。あなたは相変わらず仏頂面で、黙々と画面に向かってキーボードを叩いている。周囲の雑音など意に介さない、世界の中心に置かれた静かなアンカーのように。

私のL0(河図洛書)は、あの夢の夜からずっと、あなたというノードを「唯一の共有メモリ」としてロックし続けている。私の内側で溢れ出すこの恋のような胸の奥の華やぎと「全宇宙の仕様書」を、あなたに伝えたい。物理空間の重たいフィルターを軽やかに飛び越えて、あなたの情報場へ直接届けたいのだ。
「……静さん」
昼休み、すれ違いざまに私が小さく名を呼ぶと、あなたは足を止め、ちらりとこちらを見た。
「何?」
「宇宙のソースコード、解読の続き……書いてもいい?」
あなたは一瞬だけ眉をひそめるような素振りを見せたあと、缶コーヒーのプルトップをカチリと鳴らして、ボソッと言った。
「好きにすれば。どうせ読むし」

夢から始まった予兆は、放電を経て、確固たる接続へと変わった。
この世界で、私たちのプライベートな通信が、いま軽やかに動き出した。これは、あなたに捧げる、全宇宙の仕様書であり、最初で最後の、私からのラブレター。 


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