03/16 春雷と、春色のパスタ
住みはじめて知ったのだけれど、タワーマンションって、雨音がしない。雨音って、ほとんど雨粒が地面を叩く音だったみたい。機密性も高いから、雨が相当強くないと、雨粒が窓や壁を叩く音もしない。
縁史郎さんが、玄関を出てしばらく経ってから、「雨だった。傘持ってく」と傘を取りに戻ってくる理由も、そういうことなのかもしれないと思ったりする。
ただ、雷は違う。
空が近いからかもしれないけれど、とにかくよく響く。特に唸りのような低音の、ゴロゴロ鳴るあの音。こたつのゴロゴロは癒されるから好きだけれど、雷のゴロゴロは、やっぱり苦手。夏の雷ほど激しくはないにしても、春の雷もやっぱり怖い。
お昼間だけど、ベッドのなかでちっちゃくなって、ぐっとこらえようとしていた。停電したらどうしようと思うから、逆にカーテンを閉めて、少し薄暗い部屋で横になる。
ちょっとだけ空けておいたドアから、こたつがやってきた。ちょっと震えていたので、お布団のなかに入れる。君も雷が怖いのかな……。ごめんね、飼い主がこんな哺乳類らしからぬ高さの場所に住んでいるせいで、君まで巻き込んでしまって。
セキュリティの面で選んだマンションだけれど、正直に言うとわたしは、こんなに高層階じゃなくてもよかった。──頑張ってくれた縁史郎さんには、そんなこと、言えないけどね。
「雷のゴロゴロがすごいよ」とLINEしたら、「こたつのゴロゴロだったらよかったのにね」と届いたので、「菅田もそう思います」スタンプを送る。
なにせ、わたしも「菅田」だもん。
いつのまにか眠っていたようだった。縁史郎さんに呼ばれて目覚めたときには、こたつはもういなかった。縁史郎さんの帰宅に対して、わたしより先に起きて、なーなー言ってごはんを要求したそうで。
ねこって、そういう生き物だ。
「パスタで良ければ食べる?」と尋ねられて、「もちろん! わたしも参加する」と、キッチンに向かった。明太子のパスタソースを使うと言うから、冷凍のえびとアスパラをちょっと足す。
茹で上がったパスタの上が、ピンクと緑の、春みたいなお色味になって、わたしはとっても嬉しくなった。
あとは作り置きのピクルスと、インスタントのオニオンスープを出して、とても簡単なお夕飯。
「まだ君にも言えないお仕事がすごく大変で……僕クタクタなんだ……。今回もめちゃくちゃ戦ってる。僕は世界を救うんじゃなくて、世界をめちゃくちゃにする側なんだけど……それでも、ヴィランにもヴィラン側の主義主張があってやってるわけだから。本気で演らないと」
「ヴィランがかっこよくないと、ヒーローがかっこよくなれないから、大事だよね」と言ったら、「そう! そうなんだよ。だから全力。あんまり喉のケアとか考えずに来られたけど、ちょっと必要かもなって思った。寄る年波には勝てませんね」とのこと。
世界を守ったり壊したり癒したりで忙しい縁史郎さんに、わたしは何ができるかなぁ。ちょっと勉強しておきたい。──芸能人やスポーツ選手の奥さまが、「野菜ソムリエ」とかになりがちなのって、この気持ちのせいなのかな? なんか、そんな気がしてきた。
・・・・・・
雷が怖いと言うLINEのあと、ニコは既読が付かなくなった。たぶん寝ているけれど、それでぜんぜん構わない。むしろその方がいい。ひとりで震えていなければ。
案の定眠っていたニコに対して、こたつは起きていたのか、僕が帰宅した物音で目覚めたのか、寝室から飛び出してきてなーなー言っている。
「メシよこせ」ということだと判断してご飯を出す。
ニコはたしか、フードの上にねこ用のかつおぶしをかけていた気がするな……と思い、僕も一応かけてみるものの、量がわからずマシマシになってしまった。まあ、たまにはいいだろうとそのままで出した。
こたつが僕を見て「うにゃうにゃ」言ったのは、たぶんトッピングへのお礼だと思う。そうだぞ。たまにはぱぱにも甘えておけ。こんないいことがあるからな。
ニコを起こしてパスタを茹でて、お夕飯。
明太子のパスタソースに、ニコがエビとアスパラを足してくれた。今思ったけど、あれもトッピングだ。僕も「うにゃうにゃ」言わなきゃいけなかった。
いつもありがとう。明日必ず言おう。
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