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わたしだけのクリスマスプレゼント

ずっと忘れていたけれど、ふとしたきっかけで思い出の箱がぱかっと開かれることがある。

その箱を開ける鍵は、一曲の音楽だ。



テレビが流れていた。夫が何気なく見ていたテレビだ。クリスマスソング特集の番組か何かだろうか。赤や緑の華やかな装飾が目に飛び込んでくる。キラキラと煌めく電飾もクリスマスムードを盛り上げてくれる。リズムカルで小躍りしたくなるような曲や、ロマンティックでドキドキするような曲。次から次へと、誰もが一度は聴いたことのあるメロディーが流れていく。

「あ、この曲」

わたしの心をとらえて離さなかった曲。

ある曲が、忘れていた大切な思い出を開ける鍵だったことを、流れてきたその瞬間に思い出す。一年間に一度。この時期だけの特別なプレゼント。



10年ほど前のこと。
わたしは小学校で先生をしていた。勤め始めて三年目。仕事には慣れてきたとはいえ、まだまだ新米先生。子どもの心をつかむ技術も授業力もほとんど持ち合わせていない、「一生懸命」だけが取り柄の不器用な先生だった。

その年は一年生の担任。小学校生活は初めてのことばかりの一年生。何から何までていねいに伝えないといけなかった。

ランドセルのしまい方、トイレの行き方、えんぴつの持ち方。はじめはまったくのゼロのところから。ひとつひとつ教えていくことは骨が折れることもあったが、その分、一年生というのは吸収力がものすごい。素直でまっすぐ。ぐんぐんと伸びていく。

はじめは、給食の配膳も自分でできない。順番に整列することもできない。そんなところから2学期が終わる頃には、ようやくまとまってきたかなと感じられるようになっていた。

「師走」とはよく言ったものだと思うが、学期末の12月は目が回るほど忙しい。まさに「教師」は「走る」ほど忙しい。廊下を走ったらいけません。その通り!走ったら駄目だけど、子どもたちが下校してから、こっそり小走りするほど、時間に追われていた。

そんな学期末。

「クリスマス会をしよう!」

子どもたちから言い出したのかどうだったか、もう忘れてしまったが、何にせよ、先生も子どもたちも学期末のお楽しみ。クリスマス会までに、山のようにあるテストの処理や通知表の準備などをどうにか終わらせないと。そして、わたしは子どもたちにサプライズをしようと胸に秘めていた。

「先生からも何か出し物をするね」
そんな約束をしていた。

考えていたのは、「ギターの弾き語り」だった。

その頃、ギターを習い始めたばかりで、何か一曲クリスマスソングを子どもたちに披露してみようと思い立ったのだ。



仕事を終えてから、家でコソコソと練習する日々。いや、ほとんど練習する時間を取れなかったと思う。何せ、師も走るほどの「師走」だ。

コードを覚える。コード通りに指を押さえる。歌詞を覚える。なんと全部英語。そして、ギターを弾きながら歌う。必死だった。でも楽しくてしかたなかった。子どもたちの顔を思い浮かべると楽しみしかなくて。

当日は、朝早くに出勤した。子どもたちにギターが見つかってしまえばサプライズにならない。ハードカバーのギターケースが重すぎた。駅まで、片道徒歩20分。電車に乗ること20分。よくあんなケースを持ち歩いて、学校まで行ったなと今でも思う。




いよいよ、クリスマス会本番。

「最後に先生からクリスマスプレゼント!歌のプレゼントがあります」

カーテン裏に隠していたギターを取り出す。そのあと、子どもたちに囲まれて歌った。

はっきりいって、演奏はめちゃくちゃだった。コードは何度も間違えたし、英語の歌詞は緊張で飛んでた。でも、さいわいなのか?子どもたちがよく知るクリスマスソングではなかったので、コードや歌詞を間違っても、そんなに影響はなかった。ギターが目の前にあるというだけで、子どもたちは喜んでくれていたのだった。



その時の子どもたちのキラキラした瞳が、今でも忘れられない。12月で教室は底冷えしていたはずだったのに、なぜかポカポカするようなあたたかな思い出として残っているのは、緊張で身体が火照っていたせいなのか。

わたしが、子どもたちにプレゼントしたつもりが、12月になると、どこからともなく流れてくるこの曲のおかげで、あの時の思い出がいつもそばに蘇ってきて、とてもやさしい気持ちになれる。キラキラした瞳と、あたたかな思い出がいつだってそばにあるのだから。それは、子どもたちからの時を越えたプレゼント。

もしかしたら、あの子たちの心の中にも、同じように、この曲が思い出の箱に閉じ込められていたのだとしたら。この曲が流れる、ほんの僅かな時間。それぞれの場所で、それぞれが、すこしだけ思いを馳せる時間になっているのかもしれない。

先生、あの時、めちゃくちゃ間違ってたよなぁって。

あの子たちが、どこかでそうやって笑ってくれているだろうか。思い浮かべるとまた、クスリと笑みがこぼれてしまう。

A very Merry Xmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear

Happy Xmas(War Is Over ) Jhon Lennon  


(2084字)


今日は灯火さんの私設コンテスト「灯火物語杯」に参加させていただきました。

応募は12/22(日)までとなっています。応募作品を読んでいるだけでも、クリスマス気分を満喫できますよ。

ちなみに、今回書いた記事は実話です。


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