今日の日のことを、忘れないように。
スッ、ストン。
そっと投入口に吸い込まれていった葉書。その瞬間、じんわりと心の奥からあたたかいものが広がっていくのを感じていた。
息子の手には、2通の葉書が握り締められていた。敬老の日に間に合うようにと、私といっしょに書いたものだ。自分が書いた葉書を、自分の手でポストに出す。たったそれだけのことだけど、4歳の息子にとっては初めての経験だった。
車の中で、ぽつりぽつりと言葉を交わす。
「ポスト、どこにあるん?」
「郵便局か道の駅にあるけど、郵便局に行こか」
「いいやん」
無事に駐車場に到着し、郵便局が見えた。
「あ、ちょうど信号が青やわ」
私がそう言うと、息子は私の手をぎゅっと握る。小走りで横断歩道を渡り切ると、ほっとしたのか手を離し、ポストに気づかず通り過ぎてしまう。
「ポスト、ここにあるで」
「あぁ」
照れくさそうに戻ってきた息子。ポストの前に立ち、両手で大切そうに握り締めた葉書を投入口へ。届くか心配したが、せいいっぱい腕を伸ばすと、ギリギリのところで届いた。ポストの鮮やかな赤が目に入ってこないくらい、息子の背中はどこか誇らしげで、いつも以上に大きく見えた。
その瞬間、これまでの日々が、ページをめくるように思い出されたのだった。
まだ小さくて、ポストに手が届かなかった日のこと。
届かなくて、泣きじゃくる息子。私が入れようとすると、どうしても自分で入れたいと泣いて聞かなかった。抱きかかえて、投入口まで息子を近づける。あの頃は、まだ軽々持ち上げられた。
さらにさかのぼれば、ポストすら知らなかった日のこと。
乗り物が大好きで、最初に買ったトミカは郵便車。街中で走る、郵便車を見つけては大喜びしている姿が嬉しくて、いつしか、私まで郵便車を探すようになった。
届かないものに手が届くようになり、知らなかったことを知り、できなかったことができるようになった。
身体も大きくなって、あの頃の「あなた」はもういない。けれど、私の心の中には、いくつもの「あの日」の息子の姿が確かに存在していて、今も色褪せることなく輝きを放っている。
数々の成長の瞬間に、すぐそばで立ち会うことができたこと。「あの日のあなた」が私の心の中に留まり続けていること。それこそが、最大の贈り物のように思えてならない。
「入った!」
振り返った息子の姿を見逃さないようにと思ったけれど、滲んだ涙が邪魔をする。今度は決して逃すものかと、涙を押し込めて、満面の笑みを心に刻む。
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