色とりどりのTシャツに想いを放つ
私は決して、派手な服装が好みだったわけではない。
けれど、小学校の先生をしていた頃の仕事着を思い返してみると、オレンジ、バイオレットピンク、黄色、赤。かなり攻めた色ばかりを選んで、身に纏っていた。
どうして、そんなことになってしまったのだろう。
それは、教師でもあった母の何気ないひとことがきっかけだった。
「派手な服を着た方がいいよ、遠足では目立つ方がいい」
「子どもが好きなキャラクターが、いいんじゃない?」
そんなものなのだろうか。
半信半疑ではあったものの、従順で真面目だった私は、その言葉をそのまま受け取った。そうして、ひとつ、またひとつと、奇抜なTシャツが増えていった。
高学年を受け持った時のこと。漫画の「ONE PIECE」が流行っていた。何気なく入ったユニクロで、オレンジ色のTシャツが目に飛び込んでくる。ONE PIECEのキャラクターが全面に描かれたTシャツだった。
「これは、子どもたちが喜びそう」
着てみると、想像以上の反応が返ってくる。
「先生、それワンピースのTシャツやん」
ふだん大人しい子も話しかけてきた。
隣のクラスの子までも、
「先生、ワンピース好きなん?これ、サボやろ?」
と声をかけてくるようになった。
遠足の日には、Tシャツはもちろんのこと、帽子は赤、リュックサックはオレンジと、これ以上ないほど目立つ格好で挑んだ。
コーディネート的には最悪だったことだろう。けれど、そんなことは気にしない。目立つのであれば、よし。
「先生の見えるところから離れないようにね~」
と子どもたちに声をかけても、胸を張って見守れる。子どもたちの目印になれる。母が言っていたことも、あながち間違いではなかった。
ちょっとクラスが荒れかけていた時には、「めっちゃ好きやねん」の文字が入ったTシャツを着たこともあった。授業で私語が増え、子ども同士の喧嘩もしょっちゅう。どうしても叱ることばかりになる。
それでも、ほんとうは大事に思っているよ、という気持ちを伝えたい。そんな想いを「めっちゃ好きやねん」Tシャツに託していた。
低学年を受け持った時には、動物のTシャツ。
クラスカラーが定められていた時は、毎日のように青のTシャツ。
先生も子どもも元気がほしい時は、名言が書かれたTシャツ。
そんなこんなで、数々のカラフルなTシャツや、ネタTシャツには、ずいぶんとお世話になった。
「先生」というだけで、子どもは身構えてしまうものかもしれない。臆せずに近寄ってこられる子も中にはいるだろう。けれど、引っ込み思案な子や、話したいけれど、きっかけがつかめない子もいるかもしれない。
そんな子にとっては、「Tシャツ」が先生と子どもの会話を生み出す、ちょっとした橋渡しのような存在になっていた。
そして、私自身も、
「この子たちは何が好きかな?」
「どんなものだったら喜ぶかな?」
と、子どもの心に近づこうとする機会をもらっていた。
自分から積極的に関わりいく、感情豊かでパワフルなタイプでは、まったくなかった私。どちらかというと、「クール」「淡々としている」と言われることが多い。だからこそ、Tシャツが、私の“声”の代わりを果たし、すこし自信を与えてくれていたのかもしれない。
小学校の先生を辞めてから、カラフルなTシャツを着ることはなくなった。今、クローゼットに並ぶのは、地味な色の服ばかりだ。子どもが産まれてから、黒、ネイビー、茶色などを、好んで選ぶようになったからだ。
公園では砂まみれ。食事どきにはべどべとになった手で油まみれ。吐き戻しを浴びてどろどろ。そんなママの日常。安心して汚れてもいいように、地味な服が、今の私の相棒なのだ。
ただ、カラフルなTシャツが手放せない時がある。それは、ワンオペで二人の子どもを連れて、大勢の人で賑わう公園に出かける時などだ。
公園に着いた途端、四方八方に散らばっていく我が子たち。
「待ってー!」
と言っても、振り向きもしない長男4歳。
よかった、と胸を撫で下ろすのは、目立つ黄色のTシャツを着せていたこと。たくさんの子どもの中でも、ひときわ目立つ、原色の黄色。
目の前には、おぼつかない足取りながらも、タタタタッと駆けていく次男1歳。お兄ちゃんとおそろいのTシャツで、色違いのオレンジ。こちらもよく目立つ。
カラフルなTシャツは、もう自分が着るものではなくなった。けれど、今度は、大切な我が子を見失わないようにと、子どもたちに着せる。
昔も今も変わらず、カラフルなTシャツは、私のそばにある。それは、先生としても、母としても、「子どもを大切にしたい」という小さな決意の表れだったのかもしれない。
これからも、しばらくはお世話になりそうだ。

この記事は、こちらの企画の参考記事として書かせていただきました。
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