【短編小説】雨の日だけ、君に会える
よかったら曲も一緒に聴いてみて下さい😊
雨の日になると、
私は決まって小さなバス停へ向かう。
晴れの日には誰もいないそのベンチに、
雨の日だけ、一人の男性が座っている。
黒い傘。 少しくたびれたコート。
そして、本を読んでいる横顔。
「また会いましたね」
そう言って笑う彼に、
私は
(初対面なのに……?)
と思った。
_________
あれは1ヶ月ほど前だった
その日も雨が降っていて
傘を忘れてしまった私は
小走りで走りながら家路を急ぐ
それでも雨はどんどん強くなってしまった
(仕方ない…)
家までは遠くはなかった。
でも、この雨の中を家まで走る勇気はなく、
私はバス停で雨宿りをすることにした。
ベンチでは男性が本を読んでいた
ふと男性を見る
(バスはもうないみたいだけど。。こんな日にバス停で本か…傘も持ってるみたいだし…)
不思議に思いながら
雨が弱くなるタイミングを待つことにした
男性がこちらを見た
「よかったら座ってください。まだ少し降り続きそうです…」

「……はい。ありがとうございます。」
そう言ってベンチに座った
「もしよろしければ傘をお貸ししましょうか?」
「えっ?でもあなたが帰れなくなるじゃありませんか!」
「私は大丈夫です。使って下さい。」
「でも…」
「使った傘は捨てて下さい。」
「……ではお借りします。でも必ずお返しします。よろしければ携帯の番号…」
雷が鳴った瞬間、思わず目を閉じた。
目を開けると、彼は雨の向こうを歩いていた。
彼が去るのを見てから
私はその傘をさして家へと急いだ
でもとても不思議だった
あの瞬間_________
男性は一瞬消えたように見えた
家に帰り
今日のことを思い出す
いつか雨の日に傘を返そう
そんなことを思いながら眠る
少し時がたった
その日も雨だった
傘を返したい
もしかしたらあのバス停でもう一度会えるかもしれない…
不思議とそんな風に思って
男性の傘を持ち
自分の傘をさして、あのバス停へ向かった
なぜか途中のコンビニで、
缶コーヒーを一本買った。
バス停が見えてきた
誰かがこの間のようにベンチに座っているのが見えた
もしかしたら……
そう思い、小走りになる
やはりこんな雨の日に
小さなバス停で本を読む男性
少し息を切らしながら…
「会えた…」
「また会えましたね」
男性は少しクスッとしながら言った
「よかったら座ってください。」
「はい。」
私は前と同じようにベンチに座った
「この間は傘をありがとうございました。おかげで濡れずに帰れました。」
「いえ…助けられてよかったです。」
(助けられて?)
何か不思議な違和感があった
そしてたぶん会ったのは初めてではないような気がしたのだ
「私たち、どこかで会ったことありませんか?」
「また会えましたね。」
その笑顔を見た瞬間、胸の奥が懐かしく痛んだ。
「すみません……どうしても思い出せなくて。
もしよろしければ教えて頂けないでしょうか?」
男性はやさしいまなざしで私を見る
「傘はもう返さなくて大丈夫です。」
「どうしてですか?」
「忘れていていいんです。」
「あなたが笑っていてくれたら、それで十分です。」
(え?)
その瞬間、この間のときと同じように
男性はもう遠くを歩いている
走っても届かないくらいの距離にいた
あのときと同じだった
帰り道
(忘れていていいんです…?)
その言葉が頭から離れなかった
きっと「また会えましたね。」と
笑顔で会える気がして
私は雨の日になると彼の傘を持って
バス停に向かうようになった
でもあの日以来
彼は現れなかった
晴れている日も
バス停の前を通り
ベンチを確認することが日課となった
いつも誰1人いたことがないバス停に
1人本を読む女性が座っている
その女性は60代くらいだった
不思議と引き寄せられるように
バス停へ駆け寄った
「失礼ですが、雨の日にここで本を読んでいる男性を見かけたことはありませんか?」
女性は明らかに驚いた表情をしている。
「もしかして息子と会ったんですか?」
「……息子?あなたの息子さんだったんですか?」

服装や髪型、顔の表情など話せば話すほど同じだった
「どういうことですか?私は雨の日に息子さんに傘を貸していただきました。でも…もう一度会えたときに傘を返そうとしたのですが、受け取ってもらえなくて…。」
「……それは…息子はもうこの世にはいないから…」
「え!?でも私会いましたよ。」
「もしかして、さちちゃんじゃない?」
「…はい。なぜ私の名前を?」
女性は下を向き、涙をこらえながら少し笑った
「息子は小学生の頃、転校してきたさちちゃんのことをずっと気にかけていたそうです。」
「でもある雨の日、傘を忘れたさちちゃんを見かけて、いてもたってもいられず傘を渡して走って帰ってきました。」
「それからすぐにさちちゃんはまた家の都合で転校して行った。と聞きました。」
「息子は数年前に亡くなりましたが、またあなたを助けに来た。それだけです。」
「あ…そんな…私、やっぱり会っていたんですね…
不思議だったんです。会ったことがあるのにどうしても思い出せなくて、でもどうしても思い出したくて…ずっと雨の日にはここへ来ていました。」
「もうきっと、息子は来ないと思います…」
「助けられてよかった。
あなたが笑っていてくれたらそれで十分です。
と言っていました。」
女性はまた少しだけ笑って
「そう言ったのなら、それが彼の願いです。」
「私は息子の好きだったこのバス停で命日には必ず本を読みに来るんです。息子の好きだった読書をしながら、息子と少しだけ話せる気がして…」
「あなたに会えてよかった。」
「私もです。きっと彼が会わせてくれたんですね。雨の日ではなくて、雲1つない晴れの日に。」
「優しい彼らしい、あなたへのエールです。
だからお幸せに…」
「はい。ありがとうございます。」
「では…」
帰り道
空を見上げながら、彼を想った
人生の中のほんのひとときを
一緒に過ごしただけの彼に
ニ度も助けられた私。
記憶の片隅に
あなたの優しさを見つけて
それは、これからも生きていく私に
そっと寄り添ってくれる…
彼の過ごす空に
「ありがとう」
そう小さくつぶやくと、
夏の風が頬をやさしくなでていった。
数日後
雨の中で傘のない女の子を見かけた。
「これ、使って。」
驚く女の子を残して私は走り出す。
あの日もらった優しさを、今度は誰かへ。
夏の雨が、少しだけ優しく感じた。
おわり

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