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【短編小説】 同じ缶バッジ 【ショートショート】

オレと矢野は、高2になってからほとんど毎日ゲームの話をしていた。

放課後のゲームショップ、攻略本の貸し借り、家で進めたところの報告。

男子とか女子とか、そういう感じではなかった。

東京ゲームショウへ行く朝も同じだった。

電車では2人並んで座り、膝の上にゲーム雑誌を広げた。ページの真ん中を矢野が指で押さえる。

「この新作、絶対やる」

「おまえ、格ゲー弱いじゃん」

「弱くない。あんたが同じ技ばっかり使うだけ」

いつもの調子だった。

遠くまで来ているのに、隣にいるのが矢野だと、あまり特別な感じはしなかった。

会場に着くと、人の多さでいきなり疲れた。

それでも矢野は、試遊台の列を見つけるたびに目を輝かせた。

順番が近づくと、手首につけていた黒いゴムで髪を結んだ。ゲームをやる前の、妙に真剣な顔だった。

その横顔を見たとき、オレは少しだけ動けなくなった。

いつもの矢野なのに、知らない女子みたいに見えた。

「なに」

「いや」

「対戦前から負けてる顔してる」

「してねえよ」

そう言い返したのに、声が少し変だった。

矢野はコントローラーを持ったまま、笑わずにこっちを見た。

その間が、なんだか恥ずかしかった。

昼すぎ、休憩スペースの端に座った。

オレが買った焼きそばを少し分けると、矢野は「少しだけ」と言って、けっこう食べた。

「今日さ、田口も誘えばよかったかな」

矢野が紙皿を見たまま言った。

胸の中が、変に冷えた。

田口はゲームもうまいし、背も高い。矢野は本当は、田口と来たかったのかもしれない。

「じゃあ次は誘えば」

普通に言ったつもりだった。

矢野は黙った。

会場の音だけが、2人の間を通っていった。

「……今の、うそ」

「は?」

「あんたがどんな顔するか見ただけ」

矢野はストローをくわえて、目をそらした。

オレも何を言えばいいかわからず、焼きそばの青のりだけ見ていた。

「そういうの、やめろよ」

「なんで」

「なんでも」

帰りの電車で、矢野は小さな紙袋をくれた。

中には、会場でもらった缶バッジが1つ入っていた。

「同じの2つあるから」

「なんで2つ」

「知らない。気づいたら2つあった」

そう言いながら、矢野は窓の外を見ていた。

次の日、迷った末にそれをカバンにつけて教室へ行くと、矢野のカバンにも同じ缶バッジがついていた。

目が合うと、矢野は少しだけ口をとがらせた。

「まねすんな」

先にくれたのは、そっちなのに。

#創作大賞2026

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