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牛乳

 子供の頃、食事中にコップへ牛乳を注ごうとしたら、手が滑ってパックを落とした。それでテーブル上が牛乳まみれになったのを半怒りで拭いたけれど、ちょうど目の前に置いてあった味噌汁へ牛乳が混入し、まろやかな色になった。
 捨てるのはもったいないようだからそのまま飲んだら、何だか美味しいような気がした。
 母にそう云うと、「おばあちゃんはそうやって味噌汁飲んでるよ」と教えてくれた。
 随分不思議なことをする祖母だと思い、次に会った時にじっと注目していたら、祖母は一向そんなことはしない。普通に味噌汁は味噌汁として飲んでいた。
 どうも母の記憶違いではないかと思ったけれど、確認はしていない。今さら訊いても覚えていないだろう。

 別の時、やっぱり祖母の家へ行ったら東京から従姉妹らが来ており、二人ともムギュームギューと云いながらガラスのコップで牛乳らしき物を飲んでいた。どうも意味がわからない。これだから東京者は困ると思いながら、何を飲んでいるかと問うてみると、それがムギュウだと云うのである。
「ムギュウ?」
「麦茶に牛乳を入れるの」
「お姉ちゃんが学校から走って帰って来て、『ムギュウ考えたよ!』って言ったんだよ」
 妹の方が、別段求めてもいない情報を教えてくれた。ムギュウのために、何も走って帰ることはないと思った。
 自分はそれから二人が飲むのを一頻り眺めていたけれど、一向美味そうに思われない。
 それよりも、全体どういう心持ちでそんなことを思い付いたのか、思い付いたはいいとして、どうしてそれを実地に試そうと思ったか、考えるほどにおかしな姉妹である。
 すると叔母が諦めたような顔をして、「飲んでみる?」と問うて来た。自分は「いらない」と答えておいた。

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