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嫌な話

 町外れの山に小さなダムがあり、学校の遠足で何度か行った。
 中学の時にここで飯盒炊爨をやった後、原先生が「みなさんの飯盒の洗い方がいい加減すぎて、残った米粒でお酒ができそうです」と皮肉を云い、瀬戸さんが「えぇ?」と言った。
 自分がそれを聞いて、酒とはそんなに簡単にできるものなのかと思ったのは間違いないが、原先生は小学校の先生で、瀬戸さんは中学の同級生である。だからこの二人が一緒にいることはない。先生が違っていたのか、瀬戸さんが違う級友だったのか、どうも昔のことで記憶が錯綜している。

 このダム湖から車が見つかって首のない死体が乗っていたという話を聞いた。
 教えてくれたのは松嶋だったから、自分は一向信じていなかったのだけれど、この稿を書くのに調べてみたら同じ話が出て来た。事実かどうかはともかく、少なくとも松嶋の作り話ではなさそうだ。

 中学時代には、このダム湖にブラックバスがいるので級友の徳田とよく釣りに行った。
 ある時、帰りに徳田が小便をしたいと云い出した。その辺でやれよと云ってやると、道の傍の、車を二三台停められるぐらいのスペースへ入って行った。そこで崖下に向かって放尿を始めたと思ったら、急に「わぁ!」と情けない声をした。そうしてそのまま放尿しながら「わ、わ、わ、わ」といよいよ情けない声をする。
 一体、徳田は常日頃から人を笑わせたくてうずうずしているやつだけれど、放尿しながらそんな情けない声をする法はない。また何かくだらないことを考え付いたのだろうと放っておいたら、へっぴり腰で逃げて来た。
「何をしよんな?」
「ひぇ〜やばい、やばい」
「何が?」
「いや、やばい。百君も行って見てみんさい」
「はぁ?」
 何だか面倒くさいことをいう徳田である。何がやばいか知らないが、どうせ大したことではないだろう。そう思って崖下を覗いて見ると、犬の死体が埋まっていた。
 崖の手前の斜面に、頭だけを出して埋められているのである。幸い顔は川の方を向いていたけれど、後ろから見ても既に腐敗しているのは明らかだった。
「ふぅわ!」
 自分も情けない声をして、へっぴり腰で後退った。
「ね?」
「やばい……」
「誰があんなことしたんじゃろ?」
「何であんなことしたんじゃろ?」

 単なる悪戯で埋めたままにしたとか、あるいは犬神を作ろうとしてそのまま忘れたというのではなく、亡くなった飼い犬をいつもの散歩コースへ埋葬し、景色が見えるよう顔だけ出しておいたのだろうということで自分の中では片付けている。

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