理不尽と藤原
横浜でパスタ屋に勤めていた頃、毎年夏と冬にギフトセットの販売ノルマが課せられた。店頭で売るだけでは全然足りない数である。社員が身内に売ってもまだ足りない。それでパート・アルバイトに一人三個のノルマを課して、家で買ってもらうことになる。
せっかくスタッフを採用して育てても、毎回幾人かはこれを嫌がって辞めてしまう。だから現場の社員には甚だ評判が悪かった。
現場からの評判が悪いのにはもう一つ理由があって、自分も含めて恐らく大抵の者は就職活動の際に営業マンになりたくないから人の嫌がる飲食チェーンを選んだのに、店舗の仕事はがっつりやりながら、なおかつ営業マンのようなことまでやらされるのでは、どうにも割が合わない。
そもそもそんな商才があるなら最初からインセンティブの良い職場で営業マンになっているので、結局みんなある程度は親兄弟友人に情けで買ってもらいながら、残りは自身で被っていた。
自分もそうしていたけれど、毎回買ってもらうのが何だか段々悪いように思われて、全部自分で買ったら支払いでボーナスが半分消えた。
まさかそこまでになるとは思っておらず、あんまり腹が立ったものだから、店を閉めた後で全部車に積んで、夜中に東京本社の玄関前へ置いて来た。
次の店長会議で何か云われるかと思ったが、結局何もなかった。
ある時、このノルマをこなすのに元保険屋のパートさんに売ってくれと頼んだら、三日後に、知り合いが全部買ってくれることになったと云って来た。
さすがですねと感心したが、先方はその代わりにこういう物はいりませんかとカーナビのカタログを出して来た。
今のように普及する前のことで、別段欲しいと思わない。それでもまた無闇にボーナスを持って行かれるぐらいなら、その金でカーナビでも買う方がいい。
この時買ったカーナビに、『藤原君』と名前を付けた。小学校の大嫌いな担任と同じ名前だからどうしようかと思ったけれど、結局そういうことにしておいた。何となく思い付いたのがしっくり来たからなので、別段意味はない。
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