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夜に迷う

 仕事の都合で、博多から車で一時間ばかりの所へ一泊した。
 あんまりホテルらしくない宿だった。ドアを開けると、きちんと沓脱がある。室内にはキッチンがあって、何だかワンルームアパートのようである。元はウィークリーマンションだったのをビジネスホテルに仕立て直したものらしかった。

 部屋で一息ついた後、せっかく福岡に来たのだから是非とも豚骨ラーメンを食べておこうと考えた。
 ところが宿の周りを歩いてみても、どうもラーメン屋が見当たらない。福岡に来てラーメン屋がないなんて、そんなバカなことがあるかと憤慨したが、考えてみれば名古屋だって味噌カツ屋やきしめん屋がどこにでもあるわけではない。
 いささか偏見が過ぎたと反省したら、急に二軒ばかり見つかった。それでやっぱり福岡だ、大したものだと感心した。
 二軒の内の一軒は豚骨で、もう一軒は二郎系らしかった。順当に考えれば豚骨を選ぶところだが、どうもそう簡単にいかないのが、この豚骨はチェーン店なのである。そうしてもう一方の二郎系は単店なのである。チェーンが駄目なわけでは断じてないが、旅先では単店の一期一会こそ捨てがたい。しかし福岡に来て豚骨を食わずにやり過ごすのも、いかがなものかと思われる。
 自分は一旦コンビニに入り、買い物をしながら十分ばかり考えた。そうして結局二郎系の店へ入った。

 カウンターに初老の店主一人がいるばかりで、ほかにスタッフはいない。お客も自分だけである。
 自分は一番ベーシックと思われるのをオーダーし、店主は黙々と作り始めた。
 じきに出て来たラーメンは、果たして美味かった。二郎系と云うから山盛りのモヤシを想像したが、そんなことは一向ない。けれども麺は随分太い。
 食べている間に、仕事帰りの若い男が入って来た。それから間もなくスウェットを着た金髪の女も入って来た。どちらも慣れた調子でトッピングをオーダーした。
 こうしてお客が来たなら、自分ももう思い残すことはない。
「ごちそうさま。美味かった」と席を立つと、店主は「ありがとうございます」と大いに顔を輝かせた。

 名古屋へ帰ってから、「君、福岡でラーメンを食いましたか」とネルソンさんが問うて来た。
「二郎系を食いました」と教えてやると、「何で二郎」と、けらけら笑った。自分は、けしからんやつだ、人が何を食おうと勝手だろうと腹の中がもわもわしたが、その内に段々、豚骨を選んだ方が好かったような気がして困った。


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