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蟲退治

 どういう加減でそういうことになったのか、ある時期、毎日家に蜂か蝿が入って来た。自分が中学生だった当時のことである。
 夕方になると必ずどちらかが現れて、部屋の中をブンブン飛ぶ。蜂は怖いし、蝿は汚いから、どちらにしても対応しないと収まらない。それで洗面台の下から殺虫剤を取って来て、シューッと噴き掛けて退治した。
 蜂の方は注意深く間合いに入って、充分近づいてから食らわせる。すると少しは暴れるが、もう一回とどめの一噴きを食らわすとすぐにポトリと落ちる。反撃されると恐ろしいが、注意深くやれば存外簡単にやっつけられるのである。
 ところが蝿はそういかない。すばしこくて狙いが定まらない。それで一撃必殺ではなく、後追いでシューとやるけれど、浴びせ方が中途半端になりがちで、そうする先方でも驚くのか、或いは怒るのか、いよいよ凄いスピードで飛び回る。目で追いきれないほどの高速飛行になって、こちらも何だか怖いような気がして来るが、速すぎて自身で制御が利かないのか、時折照明器具にぶつかってへなへなするので、そこを狙ってとどめを刺すのである。

 級友の冨山にその話をしたら、手を打って感心した。
「おぉ! 蜂も蝿も入って来るよのぉ。今晩蜂が来たらそうやってみる」
 感心してくれるのはありがたかったが、要は殺虫剤をシューとやっているだけで、特に手を打つほどの内容とも思われない。全体、同じ町内だからと云って冨山の家にもうちと同様に毎晩蜂と蝿が入って来るとは考えにくい。あれはきっと適当に話を合わせたのだろう。

 社会で働くようになって、一時期、部屋にゴキブリが頻出した。ある時は出勤前に洗面所の鏡に向かっていたら、背後の壁を歩いていた。またある時は、帰宅すると床を一匹がスタスタ歩いていた。
 自分の名誉のために書いておくけれど、これは部屋の真ん前にゴミ捨て場があったためなので、自分が自堕落・不衛生な生活をしていたわけではない。
 当時は殺虫剤を持っていなかったから、そうして出くわしたやつには食器用洗剤をかけて退治した。
 ところが食器用洗剤はそもそもゴキブリ退治用の作りになっていないので、随分効率が悪い。かかれば確かにもがいて死ぬが、何しろ狙いがつけにくい。ターゲットを倒した後は、あちらこちらが洗剤まみれのありさまなので、とうとう殺虫剤を買ったが、そうしたら一向現れなくなった。
 一度、食器用洗剤を受けたやつがキッチンの排水口の受け皿へ逃げたので、その上に鍋で蓋をして、隙間から存分に食器洗剤を浴びせかけた。すると鍋の下からカサカサカサカサと随分忙しい音が聞こえて、甚だ気持ちが悪かった。
 職場のバイトの大塚さんにその話をしたら、「嫌だぁ……」とやっぱり気持ちの悪そうな顔をした。

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