冷たい珈琲
軍モノの服を好んで着ていた時期がある。何しろ安くて物がいい。デザインに一癖あるのもいいい。
アメ横にそういうのばかりを売っている店があって、いつもそこで掘り出し物を探していた。大体いつも旧東ドイツ軍か米軍の払い下げ品を買っていたけれど、ある時、旧日本軍の帽子が売られているのを見付けた。もちろんレプリカである。バイトの大治郎に被らせたら面白いと思って、1つ買って帰った。
大治郎はバイトの大学生で、野球部に所属していた。坊主頭でガタイがいいのだから、似合わないはずがない。
「大治郎、これやるよ」
「何ですか」
「まぁ、開けたらわかる」
包みを開けると、果たして旧日本軍の帽子が出て来た。
「店長、これは……」
「かぶってみろよ」
大治郎が帽子をかぶると、果たして旧日本兵そのままであった。あんまり似合うものだから、その場の全員が笑いながら崩折れた。
「ありがとうございます!」
大治郎は微笑んで敬礼した。何だか笑顔だけ残して死地へ赴く人のようだった。
ある冬の日、家電量販店のチラシを見ながら、店のバイトが数人大いに興奮している。店を閉めた後で誰かが代表で並びに行くそうだ。
この当時は午前2時が閉店時間だったから、それから片付けて並びに行けば限定の目玉商品もゲットできるという寸法らしい。
富岡は「このテレビを買う」と言い、大塚さんは「私は空気清浄機がほしいです」と言う。
「空気清浄機なんて、何に使うんだ?」と訊いてやったら、「何って、空気をきれいにするんですよ」と至極わかりきったことを返して来た。
「君の部屋はそんなに空気が汚いのか?」
「えぇ……、そんなことはわかりませんけど」
全体、自分は空気清浄機という装置の必要性も実効性も感じたことがないから、それは果たして並んでまで買いたい物なのかと思ったばかりである。
芳本と大治郎も何だか買うと云っていたが、もう忘れた。
女子の大塚さんを並ばせるわけにいかないから、並ぶのは富岡か芳本か大治郎になる。その3人でじゃんけんをして、大治郎が負けた。
店を閉めて、これから行きますと云うのを見ると、大治郎は大学名の入ったスタジャンを着ているばかりで、他に何の防寒具もない。いかな球児といえど、これで何時間も外で待つのは無謀だろう。
そう云ってやったら、何、大丈夫ですよと、当人も富岡もこともなげに云う。当人はともかく、並ばない富岡がそんなことを云うのはおかしな話である。
芳本と大塚さんは何だか気の毒そうな顔をしている。
「自分、やっぱり代わりましょうか?」と芳本が言ったが、大治郎は「いや、大丈夫」と穏やかに断った。そうして「行ってきます」と敬礼し、自転車で走り去った。
それから自分らはデニーズで食事をして、明け方近くに様子を見に行った。
果たして大治郎は凍りかけていた。
缶コーヒーを買ってきてやれと大塚さんに金を渡したら、「店長どうしよう、間違えました」と冷たいのを買ってきた。
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