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怨念の化身
エビとカニがあんまり好きではない。食べられないわけではない。寿司ネタの甘エビなどはむしろ好んで食べる。
だから好きでないというのは調理方法によるのだけれど、要は殻を剥くのが面倒くさいのである。殻剥きの面倒くささと、食べられる身の量と味とを秤にかけると、どうにも吊り合わない。面倒くささが随分勝っている。
大学四年の時、就職内定先の懇親会で海鮮バーベキューを振る舞われ、カニとエビがじゃんじゃん出て来て甚だ困ったことがある。
「ほら、百君もこれ食べて。焼けてるよ」とえらい人から勧められるのを、「すみません、どうも甲殻類は苦手なもので」と断って野菜とホタテばかり取っていたら、隣でもりもり食っていた同期の女子が「私も好きじゃないんです」と恨めしそうな声をした。
彼女の皿は殻だらけである。これだけ食って「私も好きじゃない」はあんまり説得力がないけれど、先方にしてみれば「私だって好きじゃないのをこんなに食べてるのに、一つも食べないで最初から野菜とホタテに逃げるなんて狡い」とこちらを非難したかったのだろう。一応笑顔ではあったが、楽しくて笑っているようにはあんまり見えない。
果たしてえらい人も少しばかりたじろぎ、「つ、次から海鮮は止して、肉にしようか」と言った。
自分もこんなことで恨まれてはかなわないからエビを一尾皿に取り、手を付けないで終わりにした。
この女子にはその後も懇親会と新卒研修で何度か会っているけれど、配属後はエリアが全然違っていたから、どこでどうなったかは一向わからない。
もう顔も名前も覚えていない。ただあの恨めしそうな声と引き攣った笑顔が、自分の中で甲殻類の怨念の化身として残っているばかりである。
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