壺売り
ずっと放置しているフェイスブックのアカウントに、友達申請が来た。どうせスパムだろうと思って開くと、那須田からだった。那須田は昔のビリヤード仲間なので一応承認しておいたが、どうもスパムよりたちが悪かったかも知れない。
ビリヤードには一時期随分熱心に取り組んだ。
ほとんど毎日練習して、休みの日にはサークルのメンバーと終日競い合っていたのである。公式試合にも幾度か出た。
もっと有効な金と時間の使い方があったようにも思われるが、それは今さら云ってもしようがない。
サークルメンバーには、幾人か不可解な人があった。みんなどうして生活しているのか判然しないが、なぜか金を持っている。
その筆頭が那須田なので、どうにも胡散くさい。何しろ、会うたびに持っているキュー(球撞き棒)が違うのである。それも高価な品ばかり持って来る。
「買ったのかい?」と問うと「へへへへ」と笑う。「高いのだろう?」と言うと、やっぱり「へへへへ」と笑う。
全体どうしてそんな物を次々買えるのか、偽札でも刷っているのかと訊いてやったら、「ふふふふ、それはね、壺を売っているからなんだよ。君も売ってみるかい?」と妙なことを言い出した。
「壺? いくらするんだ?」
「うーん、まあ安いやつだと五万ぐらいからあるけど……」
「五万の壺は高いだろう?」
「まぁ、そうかなぁ……」
「そんなもの、一体誰が買うんだね?」
「別に、普通の……」
「普通の何?」
「お年寄りとか」
「……」
「いい壺なんだよ。いろんなことに使えるし」
「いろんなこと? 例えば?」
「色々あるさ。水を入れておいたり、息をフーっと吹き込んで遊んだり…」
「……」
那須田はその頃ブログをやっていた。
ある時、行きつけのビリヤード店が廃業したと書いていたから、「いい店だったのに、とうとう潰れたか」とコメントしたら、「『とうとう』とは何だ」と噛み付いてきた。
それには取り合わないでいたけれど、後で別の記事に付けたコメントがいつの間にか消えていた。
送信エラーになっていたかと思ってもう一度コメントしたら、それも消えた。今度は送信完了を確認しておいたので、きっと那須田が削除したのだろう。詳しくは覚えていないが普通のコメントだったはずである。黙って削除とは、随分大人げがない。
それで那須田にはもう関わるのを止して、音信不通で十年以上経過したのが、今になって急に現れて、訊ねもしない近況をぺらぺら書いては送ってくる。どうも気持ちが悪い。
いいなと思ったら応援しよう!
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。