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ネガフィルム

 昔、写真の現像をする店のバイトに応募した。まだデジカメなどない当時のことだから、そういう店は今より多くあったのである。
 面接に行くと、店主は人の良さそうなおじさんだった。辞めたばかりのCD屋のオーナーとは随分様子が違う。
 よろしくお願いしますと渡した履歴書を見て、店主は「お、◯大学なの?」と言った。
「はい」
「僕も◯大卒業生なんだよ。懐かしいなぁ」

 最初こそ大学の話で打ち解けた感じがしたけれど、その後の受け答えにはあんまり手応えを感じない。これはどうも受からなそうだと諦めていたら、「じゃ、次の日曜からね」と、変なことを言い出した。どうも採用されたらしい。
 工場や倉庫の日雇バイト以外で即決は初めてである。大学名が効いたように思われたが、実際どうだったのかはわからない。

 初日に出勤したら、バイトで男子は今のところ百君だけだと云われた。それは何だかやりづらそうだ、面接の時に教えてくれよと思ったけれど、シフトに入るのは二人だけだから相対あいたいするのは常に一人である。それなら「数人の女子グループに馴染めない百裕」の構図はないだろう。ひとまず安心して働くことにした。
 シフトが一緒になるのはいつも同じ女子だった。もう判然しないが、名前は岸田さんだか岸本さんだか、何しろ岸がついたように思う。
 岸某さんは観月ありさに似ていた。恐らく看板娘だったのではないかと思う。随分真面目な女子で、無駄口を叩かず黙々働いた。真面目な女子だと感心したが、後で考えたら相棒が百裕だから黙っていたのかも知れないと思いついて、少しくどんよりした。

 ある時、高校生の女子が使い捨てカメラを持って来た。
「いらっしゃいませ」
「これ、現像お願いします」
 現像は、フィルムを機械に入れるだけである。そうしてネガフィルムになって出て来たのを手頃な長さに裁断して印画紙に焼き付ける。焼付は慣れがいるのでありさに頼んだが、機械に入れるのと裁断は受け付けた自分がやった。新人だってそれぐらいはできる、ヘビメタを舐めんな、と云うぐらいの心持ちであったように思う。
 そうして現像はまず問題なく終わらせた。ところがフィルムの裁断でやらかした。どうかした弾みに、像の真ん中でカットしたのである。
「あ」
「どうしました?」
 ありさが問うて来た。
「……やばいところで切りました……」
「……やっちゃいましたね……」
「……何とか、ならんですかね……?」
「……無理、ですね……」
 蛍光灯に透かして見ると、どうも体育祭の写真らしい。自分が切った両側に、男子と女子が一人ずついる。
「……しかも、カップルの真ん中だ……」
「……え……」
 きっと、あの女子が意中の男子に勇気を振り絞って声を掛け、男子は男子で嬉しい癖に仏頂面をして、一枚だけ写ったものだろう。考えたら何だかムカつくが、ムカつくから切っていいというものではない。フィルムがこの有り様だから、その一枚は永久にプリントできないのである。
 これは悪いことをしたと、片付かない心持ちになった。
 それから昼ごはんにコンビニのおにぎりを食った。昆布と鮭だった。
「それで足りるんですか?」とありさが言った。

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