バベルの塔
これまでの人生で一番ジュースの自販機を使った時期はいつだったろうかと考えれば、これは鈴木学生寮に住んでいた十九の頃なのに違いない。
寮の玄関前に自販機が置いてあって、毎日缶コーヒーとかジュースを買っていた。自販機は二つあり、一つはダイドーで、もう一つはコカコーラだった。
ダイドーのにはくじが付いており、毎日買うものだから何度か当たった。最初は「当たった!」と随分感動したけれど、段々慣れて「ああ、当たりね。はいはい。ありがとう」ぐらいになった。
コカコーラの方では、都市伝説になっているゴールデンアップルを飲んだように思うが、世の中で議論されているのとどうも時代が違う。調べてみたら91年にグリーンアップルが発売されていたから、多分それを勘違いしているのだろう。
空缶は廊下のゴミ収集スペースへ出すことになっていた。可燃ゴミは置いてあるポリバケツに入れて、それ以外はバケツの傍に置く決まりになっていた。
ある時そのゴミスペースで空き缶が二つ三つ重ねて置いてあるのを見かけた。誰かがふざけて積んだものだろう。それで自分はあることを思い付き、しばらく缶を捨てずに、洗って部屋へ溜め始めた。
ある程度溜まったところで、それを全部瞬間接着剤でつなげると、天井まで届くほどの高さになった。
みんなに自慢してからゴミに出すつもりで、室内に立てておいたら、先輩の井村さんが遊びに来た時に当たって倒れた。
「あ! すまん。ていうか、なんじゃこれ?」
井村さんは倒した缶が全部つながっているのを指してにやにや笑い出した。
「面白いでしょう? 天井までつなげてゴミに出すんですよ。バベルの塔ですよ」
「しょーもないことを」
バベルの塔はそれから何人かに見せてやったけれど、みんな「くだらない」「バカバカしい」「何をやってるんだ」と失笑するばかりで、どうも大した反応が返って来ない。
それからとうとう夜中にゴミ置き場へ置いたら、翌朝寮母さんがバラして処分した。
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