釈迦と金髪
CD屋のバイトへ行く途中、梅田駅の高架下で異人の青年がアクセサリーを売っていた。恐らく中東の人だろうと思ったが、西アジアだったかも知れない。
何となく足を止めて見ていると、「わぉ、お兄さん、ヘヴィメタルね。一つどうですか?」と問うて来た。
その頃自分はヘビメタで、そういうアクセサリーはいつも一つ二つ身に着けていた。気に入るのがあれば買うつもりで眺めて見たが、どうも全部高いようである。
「どう? 安いね」
「それ見せて」
適当に目に付いたのを一つ見せてもらった。お釈迦様の顔の指輪である。
「これね。千七百円ね」
間延びしたようなお釈迦様だった。指輪のことはよくわからないが、あんまり精巧な作りでないのは間違いない。
「……高いなぁ」
「安いね」
「いや、高いよ」
「安いね」
「千円なら」
「……えぇ?」
「千円」
「……う〜ん」
「じゃぁ、返すよ」
「オーケー、千円でいいね」
早速その指輪を着けて出勤した。
その日は深川さんと一緒のシフトだった。深川さんはそこのバイトで唯一自分より年上の先輩で、モナリザのような顔をした女性だった。金髪だったので最初は何だか怖かった。
ある時、店内BGMにキャッツインブーツを流したら、「ジブン、キャッツインブーツ好きなん?」と言ってきて、それで実は気さくな人だとわかって安心した。後になってその話をしたら、百君の方がよっぽど怖かったわと返って来た。どうやらお互いに怖がっていたのだとわかった。
深川さんに指輪を見せて、千七百円を千円に負けさせたと語ると、深川さんは「ふ〜ん、鬼やな」と言った。別段興味のなさそうな様子だったから、指輪の話はそれぎりにしておいた。
この指輪はサイズがどうも大きくて、油断すると指から抜けて落ちる。それからじきに梅田へ着けて出かけ、帰って来たら失くなっていた。
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