雷神の話
小六の時、学校で歯を磨いていたからあれは歯科検診の前だったのだろう。空がどんより曇ってきて、遠くでゴロゴロ聞こえ出した。
それからじきに稲光がして、あっ、と思った。
「見た? 見た?」
「見た!」
稲光を見たのはみんな初めてだったようで、甚だ興奮したのを覚えている。
雷とは随分大したものである。今は仕組みがわかっているからどうということはないけれど、何も知らずにあんな音と光を見せられたら、神様が怒っていると思うのも道理だろう。
高校二年の一学期終わりに、初めてバンドでライブをやった。
自分のギターはちょっと人前に出したくないような代物だったから、近所に住んでいる佐久間君のヤマハを借りた。
借りる際、佐久間君は「壊すなよ」と、言いながら貸してくれた。ありがたい反面、何だかカチンと来た。
そうして臨んだライブは、随分酷い出来だった。何かの罰ゲームみたいな有様だったろう。早く終わらせたいと思った。後で訊いて、メンバー全員同じ心持ちだったとわかった。
「まさかここまで酷くなるとはのぉ……」
「もう、やめた方がええかも知れんのぉ」
各々陰鬱な面持ちで、大いにどんよりしながら家へ帰った。
翌日になっても自分の凹みはまだ戻らない。佐久間君にギターを返す約束だけれど、色んな条件が合わさって、「ありがとう、やっぱりいいギターだね」と言うのが甚だ口惜しい。
朝から曇っていた空が愈々暗くなり、ゴロゴロ鳴り出した。もう行くのはよっぽどよそうかと思ったけれど、このヤマハが手元にあると、それはそれでじりじりする。
どうでもいいやと、返しに行った。
大人になってから、仕事の帰りにコンビニに寄った。
車を下りると急に強い風がゴォォォと吹き出して、見る間に空が雲に覆われた。黄味がかったグレーの変な雲で、何だか大魔神でも出て来そうな按配である。
こんな色の空は初めて見たから、不安になった。店主と他のお客も出て来て、訝しげな顔で空を眺めている。
彼らと入れ違いに店へ入り、弁当とビールを買った。
「何か、変な空だねぇ」
金を払いながらレジのスタッフに言った。
「雨、降るんですかねぇ」
店を出ると、もう空は元通りだった。
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