金目鯛の煮付け 〜Reply〜
大学へ行く途中、アサヒビールの工場近くで何だか原付の様子がおかしいと感じた。お尻がふにふに揺すられるようなのである。
路肩に停めて確認すると、果たして後輪の空気が抜けてふにふにしている。どうもパンクらしかった。
学校まではまだ結構ある。そこからは何かに祈る気持ちで、ふにふにしながら無理に乗って行った。おまわりさんに「おい、君、その原付はパンクしているのだろう」と咎められたら嫌だなぁと思ったけれど、幸い見つからなかった。見つからなければ良いと云うのではないけれど、ほっとした。
「すみません」
学校近くのバイク屋で奥へ呼びかけると、おかみさんがのそのそ出て来た。
おかみさんは普通のトレーナーを着てジーンズを穿いている。自分は、バイク屋と云えばつなぎを着たおじさんのイメージだったから、幾分驚いた。
「はい?」
「これ、パンクしたみたいで……」
「あらぁ……、本当ねぇ」
おかみさんは大袈裟に驚いて見せた。バイク屋だったらパンクぐらい見慣れているだろうに、全体何をそんなに驚くことがあるものか、どうも調子のずれるおかみさんである。
もっとも調子外れでもやっぱりバイク屋には違いない。左右に首を傾けながらタイヤを回して見て、修理に小一時間かかると云うので、自分はそのまま原付を預け、ひとまず学校へ行った。
授業の後で店へ戻ると、自分の原付は店内にすっくと立ててあった。病に臥せっていたのがすっかり快復したような案配で、中古のボロが何だか凛々しく見えた。
「直ったよ」
「ありがとうございました」
修理代を払って外へ出したら、今度はエンジンがなかなかかからなかった。
元々バッテリーが弱っており、いつもキックでかけていたのが、この時に限ってキックでも一向かからないのである。
何度もキックペダルを踏んで空咳みたいな音をさせていると、おかみさんが中から出て来た。
「もう、バッテリーが駄目みたいねぇ」
「キックでも、バッテリーが関係あるんですか?」
「あるある」
おかみさんは、何を云っているのかと云わんばかりの顔をした。そんな顔をされたって、こちらはバイク屋ではないのだから知らない。知らないものはしようがない。
そう云ってやろうかと思ったけれど、かからないではいよいよしようがない。諦めてバッテリーを交換してもらった。存外安かったように思うけれど、いくらだったか覚えがない。
それでようやく家へ帰った。原付を降りると近所の家から煮魚の匂いがした。
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