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kitashige5940
お前さんを笑う
小六の時、どうしてそういう話になったかは忘れたけれど、教室で英志が急に、浜田が和田の妹から『お前さん』と呼ばれていると教えてくれた。
「お前さん?」
「そう。お前さん」
「何か、時代劇の夫婦みたいじゃのぉ」
「そうじゃろ?」
おおよそ父親かじいさんがテレビで時代劇の再放送を見ている横で和田の妹が「お前さん」という呼び方を聞き覚え、誰かをそう呼んでやりたいところへたまたま浜田が遊びに来たものだから、映えある『お前さん』に任命されたものだろう。
英志は何だか一人でニヤニヤしている。そうしてじきに、「ふふふふふ」と笑い出した。随分楽しそうだが、こちらは何がそんなにおかしいものだか一向判然しない。一緒に笑う義理もないので放っておいたら、急に席を立ってどこかへ行った。
自分は次の休憩時間に浜田の席へ行き、「和田の妹からお前さんって呼ばれとるんか?」と訊いてやった。
すると浜田は「う〜ん、知らん」と困ったような顔をする。
その傍で、和田もやっぱり困ったような顔をしている。そこへ英志がニヤニヤしながら現れた。どうも英志一人が面白がっているのである。自分は和田が何だか気の毒に思われて来て、この話はそれぎり止した。
そうして英志に「お前、さっきから何がそんなに面白いんな?」と問うてやった。
「別に」
「別にじゃぁないじゃろ?」
「いや、別に」
英志はあくまでしらを切る。
自分は浜田と和田と力を合わせ、英志を便所の刑に処してやった。
後になって、浜田が和田の妹を嫁にもらえば随分ドラマチックだったろうと思ったが、浜田も和田も英志も、今はどこでどうしているか一向知らない。
※便所の刑の詳細はこちら↓
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