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黒と金

 佐川は自分が初めて店長をやった店のアルバイトで、高校生の間はどうも使い勝手が悪く、いずれ入れ替えるつもりでいたのが、大学生で時間の融通が利くようになったら主力スタッフになった。それに合わせて髪も金髪になった。
 この店では髪染めは禁止だが、そんなことを云いだしたらシフトが成り立たない。だから多少のことは大目に見ていたけれど、金髪はやり過ぎの感がある。
 それで自分は上司の地区マネージャーと顔を合わせることがないよう、佐川を深夜帯のシフトに固定した。
 ところがある時、他のスタッフの都合でやむを得ず日曜のランチタイムに入れることにしたら、その日に限ってマネージャーが店へ来ると云い出した。
 別段佐川に会いに来るわけではないけれど、だからやっぱり休めと云うと他のスタッフを代わりに入れなければならないので面倒くさい。
 仕方がないから佐川をつらまえて裏へ呼び出した。
「おい、日曜にマネージャーが来ることになった」
「え? マジですか?」
「マジだ」
「やばいじゃないですか、どうするんですかこの髪? やっぱり休みましょうか?」
「いや、人が足りなくなるから休むのはだめだ。その頭は、何とかして来い」
 随分無茶な指示のようだが、そもそも金髪にしているのが誤りである。
 佐川は「えぇ?」とか「どうすりゃいいんだよ」とかぼやいたが、次のシフトで黒髪のカツラをかぶってきた。
「お前、それ、マジか?」
「これでいけるんじゃないですかね?」
 あからさまにカツラが浮いて、頭髪が変にボリュームアップしている。
「だめだ。不自然すぎる。他の手を考えろ。ていうか黒に戻せ」
「えぇ? 待ってくださいよ、別の手を考えますよ」
 考えるはいいが、佐川の次のシフトはマネージャーの来る日曜である。自分は胃の辺りがどんよりしながら日曜を迎えた。

 当日、佐川は金髪のままで現れた。
「お前……」
「大丈夫です。秘密兵器を持って来ました」
「秘密兵器?」
「これです!」そう言って、ポケットからスプレー缶を取り出した。「髪を黒くするスプレーですよ!」
「……本当に大丈夫なんだろうな?」
「ええ!」
 じきに着替えて出て来た佐川は、確かに髪が黒くなっていた。しかしよくよく見ると地肌も黒い。特に生え際のところで白黒がきっぱり分かれ、随分珍妙なことになっている。
 何だかじわじわ笑えて来たところへマネージャーが現れた。
「おはよう。店長、何を笑ってるんだ?」
「マネージャー、見てくださいよ、こいつの頭」
「別に、何もおかしくないだろう? 店長、ちょっと店長室借りるぞ?」
 マネージャーがバックヤードへ行ったのを確認して、佐川が目を見開いた。
「店長、どういうつもりだ! 怒られたいのか! あんたは!」
 その顔があんまり面白いものだから、自分は吹き出してしまい、とうとう膝から崩折れた。
 
 


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