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深い赤

 ビリヤードサークルのメンバーと集まって遊んだ後、ガストで談笑していたら、不意に小野さんが携帯電話を機種変更したと云い出した。
 どうしてそんな話をしたか、もう判然しないけれど、菅田さんが食い付いた。
「どこのメーカーにしたんだい? 俺もそろそろ換えようと思ってるんだよ」
「どこだったかな。これなんだけど……」
 小野さんはそう言って、赤くてぎらぎらした携帯電話を取り出した。何だか深みのある、いい色だった。
「シャープ、か?」
 菅田さんが目を細めて見極めるような顔をした。
「うーん、SHって書いてあるね」
「シャープだな、それは」
「へぇ、SHはシャープなのか」
 その当時の携帯電話の機種名はアルファベット一文字と三桁数字の組み合わせだった。アルファベットはメーカーの頭文字である。シャープは後から携帯電話に参入したものだから、Sがどこかの先行メーカーと重複して、SHの表記になっていたのである。
「それにしても、何だか凄い色じゃないか」
 菅田さんは、今度は何だか揶揄するような調子である。すると小野さんは、困ったような笑いを浮かべた。
「在庫がこれしかないって云われたから、これにしたんだよ」
 携帯電話に店の照明が反射して、いよいよぎらぎらした。それを見て、自分は云わずにおこうと思っていたけれど我慢ができなくなった。
「小野さん、その赤……」
「ん?」
「俺のギターと同じ色だよ」
「……あ、あぁ、そう?」
「それと、中学時代に持ってたウォークマンもその色だった」
「……そうなのかい」
「うん、そうなんだよ。それより、感心してないで食えよ。冷めるだろう?」
 小野さんの前にデミグラスのオムライスが運ばれて来たのである。その当時はまだ店員が手ずから料理を運んでいたから、喋っていても料理を置かれるのだった。
「え、それは食べるけれど……」
 菅田さんが、知らんわと云ってくすくす笑った。

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百裕(ひゃく・ひろし) よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。