見出し画像

ロバ先生 その2

 図工の時間、ロバ先生が教室の真中に椅子を置いて、「今日は先生を描きんさい」と言った。
「……」
「……」
「……」
 誰もそんな物は描きたくないけれど、嫌だと云ってもしようがない。現に先生は勝手にそのつもりで、姿勢を正して座っている。こうなっては嫌でも我慢して描くしかない。
 その絵は教育委員会の絵画コンクールに出品するそうだ。誰が審査をするのか知らないが、ロバの似顔絵が40枚も届いたら、審査員は随分驚くだろう。そう考えたら何だか気の毒に思えて来た。

 ロバ先生は足の上に両手を重ねたポーズで、「下絵を鉛筆で描いて、それから絵の具で塗るんよ」と言った。
 鉛筆だったらやり直しが利く分描きやすいが、ロバの絵にそうまで拘る理由が判然しない。いつも通りにクレパスの一筆書きへ絵の具を塗ったって良さそうなものだ。
「鉛筆で描くって、珍しいねぇ。上手く描いてほしいんじゃろうねぇ」と松岡が言うのを聞いて、なるほどそうかと得心した。

 下絵を塗ったら絵の具が濃すぎて、鼻とほうれい線が見えなくなった。いくらロバの顔だって、目と口だけでは気の毒だ。それで肌色の上から黒の絵の具で鼻とほうれい線を描いてやって提出した。

 数日後、ロバ先生は自身の似顔絵について、「昨日みんなの絵をコンクールに送っときました。でも、黒の絵の具で口ひげみたいなんを描いとるのがあったけど、あれは出さんかったよ」と言った。随分苦々しい口振りだったのを覚えている。
「あれ、百君の絵のことじゃないん?」と松岡が言うので、「別にどうでもいい」と答えておいた。
 実際、コンクールに出す出さないはどうでもよかったけれど、後になって、あれでこちらにギャフンと云わせたつもりになっていたと気が付いたら、いつまでも面白くない心持ちがして困った。


いいなと思ったら応援しよう!

百裕(ひゃく・ひろし) よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。