※ショッキングな内容を含みます。そういうのが苦手な方には、読むのをおすすめしません。

「あの時、水道工事で断水してるのを知らなくて、うんこをしたから困ったよ」
ミスドで辻が、ポン・デ・リングを手にとってしみじみと語り出した。大学時代の話らしい。
仕事の帰りにコンビニでたまたま出くわして、ちょっと茶でもしようと云うことになった。コンビニとミスドの間には、不動産屋とクリーニング屋と昭和っぽいブティックが入っていた。前を歩きながら、今時こんなブティックで服を買う人があるんだろうかと思ったが、中でマダムが一人接客を受けているのが見えた。
「断水か。でも、そういうのは事前に告知があるんじゃないのか?」
「アパートの掲示板に貼ってあった。止まった後で気が付いた」辻は珈琲に砂糖を入れてかき混ぜながら、またしみじみ言った。「掲示板は、きちんと見ておかなければ、随分損をするぜ」
「後からきちんと見たって意味がないじゃぁないか」
「うん。だからそうなる前にきちんと見るのさ。水が出なくなってから、おかしいと思って調べたって、確かにあんまり役には立たないさね」
当たり前のことを、したり顔で随分上から云って来る。
「断水って、全体どのくらい止まってたんだね?」
「結構長かったようだぜ。水道管の交換工事だったから、そんなにすぐには終わらなかったのさ」
「そいつは不便だったろう」
「それは不便だった。だって、うんこを流せないのだもの」
辻はドーナツをぱくりと齧り、珈琲を一口啜った。「そんな時に限って、甚だ立派なうんこがでたものだから、いよいよ困った」
「それでどうしたね?」
「どうもこうも、そのままにしておく他ないじゃないか」
「それは嫌だな」
「おまけにそこへ、急にお前が来ることになったから、本当に焦ったよ」
「は?」
「電話してて、今から行くで、ってなったことがあったろう?」
「そういうことも、何度かあったろう」
「そのうちの一回がこの時だ。こればかりは本当に焦ったよ。何しろお前にうんこを見つかったら、きっとサークルで滅茶苦茶に言い触らすのは間違いないのだからね」
「うん、きっと言い触らすだろう」
なかなかの洞察だ。
すると辻はドーナツを皿に置き、真っ直ぐにこちらを見た。
「だからお前が来る前に急いで、うんこを新聞紙で掴んで窓から捨てた」
それから天井の一点を見つめて、渋い顔をした。なんだか、過去の罪を告白する大物悪役のようだと思った。
「……お前、まじか……」
「おう。窓から捨てた」
「新聞紙で掴んで、か?」
「素手で掴むわけにいかないじゃないか」
「……」
「においが風で入って来やしないかと思って、ずっと落ち着かなかった」
「……」
「においっていうのは、空気の中に漂ってる粒子だからな。幸いにおわなかったけれど、それでもあの時、部屋の窓の周りには微量のうんこ粒子が混じっていただろう。だからお前は、それと知らずに俺のうんこ粒子を吸ってたわけだ。けらけらけら」
「お前まじかよ、ふざけんなよ、けらけらけら」
自分はもうドーナツなんかどうでもよくなった。
前談
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