埋める人

 オープンから三ヶ月ばかりの新しい店へ、副店長として異動になった。
 新しい配属先は元の店舗の隣町で、オープン前には自分の所で研修をやったから、スタッフの大半は見知った顔である。幾人かは自分が仕事を教えた者もいる。そうして、店長は前に他の店で世話になった人なので、異動と云ったって別段新鮮味はない。
 それで随分気楽に構えていたけれど、一つ引っ掛かっているのは異動の経緯で、その店には元々自分の同期の本間君がいたが、彼が他所で店長に昇格するから自分が後任で移ることになったのである。
 残っている同期の大半が既に店長になり、自分の後から入社した店長もちらほら出て来た。ずっと人員不足の店に押し込められて、一向認められないまま、とうとう同期の昇進の穴埋めをすると思ったら、いよいよつまらない。
 それを考え始めたら、どうも気持ちがくさくさする。努めて考えないようにしたけれど、どうかした弾みにふっと浮かんで来るのは、どうにもしようがない。だからその都度くさくさした。

 異動からしばらく経ったある日、店の駐車場で車のミラーを盗まれた。ドアミラーの鏡部分を剥がして持って行かれたのである。そんなものを盗って何になるとも思われないから、きっとただの嫌がらせだろう。
 ちょうど休みの前日で、仕事の後にドライブするつもりでいたら随分がっかりした。そうして甚だじりじりしながら、帰宅して寝た。

 翌日、ディーラーへ車を持って行った。トヨタ車だからトヨタディーラーでいいだろうと思ったのだけれど、当時のトヨタディーラーは店によって扱う車種が違っていたはずである。こちらはそんな仕組みになっていると知らなかったから、適当に近くの店へ持って行った。ネッツ店だったと思う。事によるとお門違いだったのかも知れないが、スタッフは嫌な顔もせずに対応してくれた。

「部品が届くのに何日かかかりますので、届いたらご連絡します」
「よろしくお願いします」

 二、三日後に、部品が届いたと留守電が入った。
 電話を返したら、「百さん? GA61に乗ってる百さんですか?」と訊いて来た。どうも嬉しそうな調子である。古い車で珍しかったから、そういう反応をされることは時々あった。もっともこちらは車の型式なんて覚えていないから、そんな英数字を云われたって一向ピンと来ない。
「何だかわからないけど、XXのミラーの百です」と言ったら、「はい、届いてます」とやっぱり嬉しそうに返って来た。

 後になって、車のミラーを盗まれたと店長に話したら、「まじ? 前に本間の車もやられてたよ」と驚いた顔をした。
「本間はワイパーを曲げられてたよ」
「ワイパーですか?」
「そうだよ。ワイパー曲げられるなんて、最低だよなぁ」
 言っていることがよくわからない。
「ワイパーでしょ……?」
「そうだよ。最低だろう?」
「……いやぁ、ミラー盗まれる方がよっぽど困りますよ。全体、ワイパーなんて雨が降らなけれぁ困らない。何なら自分でまっすぐに戻せばいいんです」
「それはそうだけれど…」
 店長は何だか変な顔をした。

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百裕(ひゃく・ひろし) よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。