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毛糸の帽子

 自分は仕事の帰りに、駅から駐輪場まで、鉄の橋を渡っていた。
 橋の上は遮るものがないから、風が甚だ強い。びょうびょうと冷たく吹き付ける。自分はコートのポケットに手を突っ込み、早く渡ってしまうつもりで足を速めたら、前を歩く人に追い付いた。
 その人は女性で、グレーのコートを着て、毛糸の帽子を被っている。
 のろのろ歩くのを右から追い越しにかかったら、先方は急に歩調を速めた。
 自分とその人は横に並び、お互い速足でカンカン歩く。どうも強気な女なようで、一向速度を緩めない。追い越されると都合が悪いのか、随分競り合ってくる。お互い前を向いたまま横並びでスタスタ歩いたが、こんなに速く歩くならこちらも追い越す要はない。
 段々面倒にもなって、歩調を落とすと、その人もやっぱりゆっくりになった。
 そうして自分の一メートル前を元の通りにのろのろ歩く。
 どうも不審な女である。こんなものには関わらないのが良いけれど、風は変わらずびょうびょう吹く。こうしてのろのろに付き合わされてはつまらない。
 自分は今度こそ追い越すつもりで、再び歩調を速めた。
 すると女もまた、速くなった。あんまり同じタイミングだから、一体、後ろ頭に目が付いているのではないか知らと怖くなった。
 そんなはずはないのだけれど、どうも怖ろしいように思われて、自分は一度足を止めたら、女もぴたりと立ち止まった。そうして前を向いたまま、じっと止まっているのである。
 いよいよ奇怪な女である。改めて後ろから眺めると、毛糸の帽子だと思っていたのはどうやら帽子でなく、地毛らしかった。



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