継承とニュアンス
随分幼い頃の記憶が残っている。
自分が赤ちゃんの頃に寝かされていたベビーベッドを、使わなくなってからじきに業者が引き取りに来た。どうもレンタル品だったらしい。
知らない男の人が入って来て、ベッドを軽トラックに積んで行くのを、「僕のベッド、持って行ったよ」と言いながら二階の窓から見送った。
後から考えてみると、多分二歳頃のことだったろうと思う。
この話を父が面白がり、自分が小学校に上がってからも何かにつけて「僕のベッド持って行った、って言ったんだぞ」と云うので、鬱陶しいおやじだと思った。もっとも今では自分が中学生の娘に「車で出かける時に『出発進行ではないの!』って怒ったんだぞ」と話しては、うるさいと怒られる。
ベッド返却と同じ頃、家で床に座ってテレビを観ていたら不意に放屁をしたくなった。このまましたらどうなるだろうかと思い付き、座ったままで試してみたら、身体がスゥッと浮いてストンと落ちた。なるほど、こうなるものかと得心したが、身体が浮いたのはこの時きりである。
小学校でこの話を松岡と中田に教えてやった。
中田は「えぇ? 嘘じゃろ?」と疑うばかりだったが、松岡は甚だ気に入ったようで、それから授業中でも目が合うと、座った尻を浮かせてニヤニヤ笑う。
松岡の隣の席には自分の好きな女子がいた。その内松岡の変な動きに気が付いて、「何それ?」「ん? これ? 百君がおならで浮いたんよ」「えぇ!? ほんとに?」となるのではないかと思って少しひやひやした。
ただし松岡はピョンと浮かせてドンと落ちる真似をするので、落ちる方はいいとしても浮き方が間違っている。実際はスゥッとゆっくり自然に浮き上がったのだから、見るたびに気になって困った。
そうじゃないと教えてやりたい気もしたが、あんまりニヤニヤしながらピョンドンピョンドンやって、憎たらしいから止しておいた。
いいなと思ったら応援しよう!
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。